四日市中央工対市立船橋戦(第90回全国高校選手権・決勝戦)。

ごく立ち上がりの時間帯に,先制点を奪って。


 でも,リズムを決定的に引き寄せるためには,この先制点だけでは,残念ながら足りなかった。「魔物」が国立霞ヶ丘にいるのだとすれば,それはリードを奪ったがための心理,その中にあったのかも知れないな,と思いますし,90分,という時間枠を使い切ろうとする,そんなギリギリの時間帯に試合をイーブンへと引き戻した,という背景にもやはり,心理が大きく作用していたように感じます。


 ひさびさに,フットボールでもアソシエーションなフットボール,伝統校対決となった第90回全国高校サッカー選手権,その決勝戦のお話を書いていこう,と思います。


 まずは,四日市中央工から。


 試合の主導権を掌握していたようでいて,緩やかにその主導権を手放してしまった。そんな後半がやはり,この試合を決定付ける要素になっていたように感じます。たとえば,後半の守備応対で考えてみると,市立船橋の攻撃を受け止める,という形で止まってしまう局面が増えていってしまって,ボール・コントロールを取り戻してからそのボール・コントロールを攻撃へとつなげていく,という形がなかなか表現できない状態になってしまった。相手の守備応対が,仕掛けてくるような守備応対になっていること,攻撃面でかなり深いエリアにまで攻め込まれていることなど,複数の要因が重なり合って,いつの間にか,市立船橋フットボールを「受ける」形へと追い込まれてしまった。なかなか追加点を奪えなかった,という部分も当然に作用しているでしょうが,決勝戦を“one-nil”でクローズする,その意識が強くなってしまっていたのかも知れないし,守備面で何とか相手を受け止めて,という部分に意識が強く傾きすぎてしまったのかも知れない,と感じるところです。


 続いて,市立船橋ですが。


 先制点を奪われたあとに,変な焦りを見せなかったことが,リズムを自分たちに引き寄せていく,そのための大きな要素になったように感じます。実際問題として,失点を喫した時間帯は開始1分,というタイミングです。ポジティブな言い方をするならば,残りの89分,アディショナル・タイムを含めて考えるならば90分を上回る時間が残されているわけです。その時間帯に,最低1ゴールを奪うことができるならば,延長戦へと持ち込むことができる。そんな冷静さを持って戦えていたのだろうと思いますし,後半となると試合のリズムは市立船橋が掌握する時間帯が多くなっていく。そして,アディショナル・タイムに試合をイーブンへと引き戻すゴールを奪い,延長戦へと持ち込むことに成功します。


 相手に傾いた流れを自分たちの方向へと引き寄せていった市立船橋と,いつしか主導権を手放してしまって,相手が表現するフットボールを「受ける」立場へと追い込まれてしまった四中工と。四中工としては,延長戦のワンチャンス,自分たちの形へと再び引き戻すことができれば,という状態だったかな,と思いますが,なかなか相手に傾いた流れを引き戻し,さらに引き寄せるのは難しかったかな,と思います。逆に市船としては,アディショナル・タイムへとつながる流れを,延長戦前のインターバルで変に断ち切ることなく,流れを延長戦へと持ち込めたこと,が大きな要因になったように感じます。


 いずれにしても。フットボールという競技が持っている魅力(当然,怖さを含めての魅力ですが。)を存分に示すことのできた,そんな試合だったのではないかな,と思います。