帝京大学対天理大学戦(第48回全国大学選手権・決勝戦)。

相手の強みを消すか,それとも自分たちの強みを押し出すか。


 必ずしも,相反する要素ではないと思っていますが,実際にはどちらかの要素にウェイトが傾くように思います。そして,決勝戦ともなると「勝ちたい」という意識よりも「負けたくない」という意識が強くなるのはある意味自然なこと,でもあります。となると,相手の強みを消し去る方向に意識を強く傾けたくなるのも,また自然であるように思うのです。


 今回もラグビーフットボール,大学選手権の決勝戦について書いていこう,と思います。


 国立霞ヶ丘での決勝戦,というのもひさびさな印象ですが,関西勢(と言いますか,西日本勢と言いますか。)が決勝の舞台へと上がってくるのもひさびさ,であります。それだけに,天理が3連覇を狙う帝京を相手に,どんなラグビーを表現してくるだろうか,と見ていたわけですが,彼らは「普段着」であることを強く意識して国立霞ヶ丘に立ったように感じられます。


 今回は敢えて,“Last Loser”である天理方向から書いていくと。


 主導権を積極的に奪いに行く。


 そんな姿勢を,明確にしていたように思うのです。対戦相手である帝京,彼らのパフォーマンスに対する敬意は払っても,決して等身大以上の評価はしない。むしろ,彼らが嫌がる形を,自分たちのラグビーを表現することでつくろうとする。そんな姿勢が,スコアを動かすトライ奪取へとつながったように感じます。ただ,やはり対戦相手は踏み止まらないといけない時間帯をチームとしてしっかりと理解していて,そんな時間帯に得点差を詰めると,さらにトライを奪取してリードを奪う。対して,天理はマイボール・ラインアウトでボール・コントロールを保持することができなくて,帝京にコントロールを奪われることがいささか多かった。やはり,帝京が天理に対して相当厳しいプレッシャーを掛け与えてきていたのだろうし,そのプレッシャーが天理にしてみれば,微妙なズレを生じることになっていたように感じます。ディテールに注目してみるならば,やはり3連覇を狙う帝京と天理の間には,見逃せない僅差があるかな,と思わせる部分ではあるのですが,帝京がリズムを引き戻しにかかった時間帯を,2トライで踏み止まった,というのもこの試合における鍵ではないかな,と思っています。


 ハーフタイムを迎える段階で,帝京との得点差は純然たる1トライ差です。


 この時期に付きものである季節風,その影響を織り込みながら試合を動かすことが求められるとは言いながら,決して詰められない得点差ではないように感じましたし,後半には試合をイーブンな状態へと引き戻すことに成功します。けれど,最終的にこの試合を決定付けるのは,対戦相手である帝京,彼らのPGでした。


 やはりこの試合も高校選手権と同じようにディテール,具体的には相手のマイボール・ラインアウトに対する厳しいプレッシャーが,間接的にであるとしても,試合に影響を与える要素であったように思うのですが,それでも天理は素晴らしい“Last Loser”ぶりを示してくれたな,と思います。ファイナル・スコアから見れば,決勝戦らしい決勝戦と表現しても差し支えないようなスコアですが,ロー・スコアという結果を導いたのは,互いが相手のストロング・ポイントを消し去りあった結果,というよりも,互いが自分たちのストロング・ポイントをぶつけ合った結果だろう,と思うのです。それだけに,この決勝戦は魅力的な東西対決だったな,と思うのであります。