國學院栃木対深谷戦(第91回全国選手権・3回戦)。

リズムを失った時間帯が,どれだけあったのか。


 そして,そのリズムを失った時間帯がどれだけクリティカルだったのか。


 当然,埼玉県に住んでいる人間ですし,まして県北エリアに住んでいる人間としては,深谷への好意的なバイアスがあるのは否定しませんが,それでも「僅差」が勝者と敗者を厳然と分けた試合,と言うべきではなかったかな,と思います。


 すでに,トーナメントは準決勝へと進んでいて,やはり今季も西高東低状態が解消できなかった,第91回全国高校ラグビーであります。今回は,(中のひとが遅筆堂であることを棚に上げつつ)ちょっと時間の針を戻して,國學院栃木深谷のゲームをちょっとだけ書きとめておこう,と思います。


 まずは,このゲームを制した國學院栃木ですが。


 恐らくは無意識的に,だと思いますが,それでも後半には隙を生じたのではないかな,と見ています。


 立ち上がりの時間帯を見れば,ほぼ互角の立ち上がり方です。この時間帯から,主導権をスッと引き寄せたのは國學院でした。個人的に印象に残っているのは,モールを巧みにドライブしながらボールをゴールエリアへと置きに行く局面です。この時間帯,國學院深谷がどのような形でモールに入って守備応対をしているのか,冷静に判断しつつモールをドライブしていました。この前段階を含めて,國學院は狙うラグビーを的確に表現していたし,深谷國學院ラグビーを受け止めざるを得ない状態に置かれたわけです。


 スコアを動かした,という意味では23分からの時間帯となりますが,この時間帯が國學院にとって,試合を難しくするきっかけになったのかも知れない,と思うのです。互角な状態から主導権を引き寄せ,相手に主導権を譲り渡さずにハーフタイムを折り返した。優位な状態で試合を折り返したことで,相手をしっかりと抑え込む,という部分にある種の緩さを見せてしまったように思います。チームとしての潜在能力は決して低くないと思うだけに,ちょっとしたゲーム・マネージメントの隙が,必要以上に試合を難しくしてしまったように,個人的には感じるところです。


 対して,深谷であります。


 同じく,前半20分前後からの時間帯が,この試合を決定付けてしまったな,と思います。当然,ネガティブな意味で,です。試合全体から考えるならば,あくまでも時間帯限定なのですが,國學院が狙うラグビー,そのラグビーを真正面から受けてしまう,そんな時間帯をつくってしまった。クリティカル,という意味で見れば,國學院が主導権を深谷に奪われた時間帯よりも大きな意味があった時間帯である,と言うべきでしょう。後半,深谷がどんなラグビーを表現して,國學院を追い上げにかかったのか,という部分を見れば,決して國學院との差は大きなものではない,と思います。むしろ「僅差」であると思っています。ですが,トーナメントにあってはその僅差が,決定的な要素として作用するようにも思うのです。ファイナル・スコアで見ると,國學院栃木との得点差は5,コンバージョンなしの純然たる1トライ差,です。前半のリズムの失い方,ゲームの主導権を國學院サイドへと相当に持って行かれた状態から,その主導権を引き戻し,自分たちへと引き寄せて,その結果としての5点差ですから,文字通りの「僅差」であると思うのですが,僅差であろうと勝者と敗者を分けるには十分すぎる差でもある,のです。


 深谷にとっては,この5点差を生じた要因が何なのか,そして,ゲーム・マネージメントという部分で相手へと傾きかけている主導権をどれだけ早い段階でイーブンへと引き戻すか,県予選レベルではなかなか隙にならないのかも知れない,ゲーム・マネージメントの粗さが近鉄花園では致命的な要因となりかねない。ちょっとばかり気の早い話になりますが,来季のチームがこの課題をどのようにしてクリアしてくるのか,注目してみたいと思います。