対マレーシア戦(U−22・ロンドン五輪最終予選)。

「勝ち点3」を奪取したことと,無失点でフルタイムを迎えたこと。


 対戦相手とのチカラ関係を念頭に置いてでありましょう,「勝ち点3」を奪うだけでなく,しっかりとした得点差を,などという見方もされていましたが,最終予選で優先すべきなのは勝ち点3を積み上げていくこと,勝ち点3が難しければ勝ち点1を確保することであります。さらに。初戦を終了した段階では,まだどのチームを最終的に意識すべきか,見えてくる部分は決して多くはありません。であれば,最優先項目である勝ち点3を確保したことは,しっかりと評価しておかないと,と思うのであります。


 もちろん,可能性を感じるからこそ,もっと要求してみたい要素があるのも確かですが。


 鳥栖で行われたマレーシア戦であります。


 やはり,代表戦をホストするに相応しい競技場だな,と感じます。決して大きなキャパシティを持った競技場ではないとしても,イングランド・スタイルな競技場が醸す雰囲気は,代表戦にあって大きな武器になる,と実感させてくれるものがありました。当然,この競技場を本拠地とするクラブ,彼らに負担になるような形であっては意味がありませんが,ピッチ・コンディション面で過度な負担にならないスケジュールが組めるのであれば,積極的に代表戦のベニューに,という判断も悪くないと感じます。


 さて,本題の試合でありますが。


 最終予選をどのように立ち上がるか,という方向からこの試合を眺めると,しっかりと評価できるものだったのではないかな,と思います。ごく大ざっぱに書けば,チームとして「やりたいこと」,守備応対面ですと「やらなくてはいけないこと」になるかと思いますが,これらの約束事がしっかりとチームに浸透していることが強く感じられます。そのために,攻撃面では「個」の持っているパフォーマンス,そしてイマジネーションがシンプルな攻撃にしっかりと結び付けられていましたし,守備応対面ではボール・コントロールを失った直後からの対応が徹底されているから,最終ラインが相手ボール・ホルダーを追い掛けていくような守備応対を強いられる局面がかなり抑え込まれていました。ゲーム立ち上がりの時間帯に先制点を奪えたことを含めて,相当程度狙うフットボールを描けたのではないかな,と感じるところです。


 それだけに,もうちょっと要求してみたくなるわけです。


 端的に書けば,「時間」を支配してほしい,と思うのです。この試合,相手を押し込んでいる時間帯がかなり長かったのは確かですが,相手を翻弄する,あるいは守備ブロックを構築している相手を引き出す,揺さぶっていく時間帯はなかなか見られなかったように思います。チームが加速態勢に入っているときの攻撃リズム,そのリズムに迫力が感じられたのは確かですが,そのリズムをもっと強く相手に印象付けるためにも,もっと「緩やかな」時間帯があってもいいな,と思います。そして,緩やかな時間帯から仕掛ける時間帯,ギアを落として相手に襲いかかっていく時間帯へのスイッチとして,「縦パス」が機能するともっといいな,と。
 この試合では,ボール・コントロールを相手から奪ったとして,そこから加速ギアへとエンゲージするのが早い,そんな局面が多かったように感じます。高いエリアでボール・コントロールを奪い返した,というタイミングであれば,ギアを瞬時に加速ギアに,という選択が当然だろう,と思いますが,低めのエリアでボール・コントロールを取り戻したタイミングでも,ちょっと「攻め急いで」いるかのように攻撃へのトランジットをしている。リズムという側面でこの試合を振り返ってみると,リズムの落差が小さい,どちらかと言えばハイビートなままでフルタイムまで行ってしまった,という印象があるのです。
 攻撃面でも,そして守備応対面でも自分たちの形に相手を引き込めている,という感覚があるからなおさらに,だとは思うのですが,結果としてゲーム・マネージメントが単調な方向に振れてしまったかな,と見ているのです。そのリズムを,自分たちで積極的にコントロールする意識が浸透していくと,さらに組織性,連動性が意味を持ってくれるのではないかな,と感じるわけです。


 ともすれば,難しい立ち上がりになってしまいがちな初戦を,しっかりと自分たちのフットボールで乗り切ってみせたことが,最も大きな収穫なのは間違いありませんが,このチームにはもっと高いレベルでフットボールを戦える,そんなポテンシャルを感じさせる試合でもあった,というのもまた,かなり大きな収穫だったのではないかな,と思っています。