オリジナル・クワトロ風なA1。

ちょっと見ると,戦闘力を持ったマシンには見えないかも知れません。


 それまでのラリー・マシンを思えば,「物理特性」が戦闘力を決定付けると考えるのが自然だったか,と思います。たとえばランチアストラトスは,この「物理特性」に忠実なデザインがされたマシンです。ストラトスが物理特性から戦闘力を高めようというアプローチならば,アウディは自分たちが持っている「技術」で戦闘力を高めよう,というアプローチを採用したように感じます。


 パワーを引き出すことができたとして,そのパワーを路面に伝えることができなければ,「速さ」に結び付くことはない。そこで,安定してパワーを路面へと伝える手段として,フルタイム4駆をラリー・フィールドへと持ち込む決断をした,と。この決断が,ラリー・マシンの文法を大きく書き換えるきっかけとなったわけです。



 アウディの代名詞である,“クワトロ・システム(フルタイム4駆ですね。)”,その源流がオリジナル・クワトロでありまして,オリジナル・クワトロがWRCに参戦していたときのカラーリングがA1の純正アクセサリーとして用意されます,という話をレスポンスさんのニュース記事をもとにしつつ書いていこう,と思います。



 さて。A1であります。


 Aが付いているので,どうしても上位セグメントのA3やA4などの流れで見てしまいますが,デザイン・モティーフを冷静に眺めてみると,TTとの距離感が近いモデルではないかな,と見ています。ディメンションだけを見ればコンパクト・クラスですが,実際の仕立て方を見るとGT的な位置付けもカバーしている。セグメントも,ボディ・サイズも違うけれど,かつてオリジナル・クワトロがカバーしていた商品領域と重なる要素がある,と(最大限好意的に解釈すれば,ですが。)理解できる余地もある。そこで,というわけでもないのでしょうが,WRCに参戦していたときのカラーリングを復活させてきた,と。


 正直なところを書けば,アウディは「過去」にそれほど興味を持たないメーカではないか,と思っていただけに,意外な印象があったのも確かです。オリジナル・クワトロは確かにアウディの基礎となったモデルですが,同時にアウディは自分たちのイメージを自ら書き換え続けることで商品性を高めてきた,という印象を持っています。そんな彼らの姿勢と,過去へのオマージュが結び付かなかったわけです。


 モータースポーツ・フリーク,それも1980年代を知る(とはいえ,残念ながら免許適齢ではなかったので,リアルタイムでオリジナル・クワトロのライド感を知らない)フリークにとっては,気にならないはずのないカラーリングではありますが,反面で“クールなアウディ”が見せた意外な顔に,ちょっとばかり戸惑う部分もあったりするのです。