国際Aマッチに暴動の影。

マンチェスター・ダービーコミュニティ・シールドも終わって。


 いよいよ,新たなフットボール・シーズンが動き出すな,と感じるタイミングだったのですが,どうも不穏な空気が漂っているな,と感じます。


 さて。今回はひさびさに欧州な話を,こちらのニュース記事(ESPNサッカーネット・英語)をもとに,難しめの話をちょっとだけ書いておこう,と思います。


 8月10日はFIFAによって国際Aマッチデーに指定されていて,イングランドもオランダとのインターナショナル・フレンドリーを組んでいたわけです。この国際Aマッチに大きな影を落としたのが,トットナムで発生した暴動,であります。この暴動,トットナム地区から南下してハックニー地区,来年にはオリンピックをホストする地区にも広がっていますし,ロンドン南部で見れば,クロイドンでもやはり暴動が発生しています。さらには,グレーター・ロンドンだけでなく,リヴァプールであったりバーミンガムにも拡大してしまっている,と。
 この状況を考慮して,FAはオランダとのインターナショナル・フレンドリーをキャンセルする,とアナウンスしたわけです。実際の治安が揺さぶられている状態で,大規模な警備が必要となるスポーツ・イベントを予定通りに開催する,という判断はあり得ないでしょう。国際Aマッチデーに指定されている,ということは,チーム・ビルディングについての自由度が高まることを意味しますから,貴重な実戦機会になることは間違いないのですが,周辺環境がそんな実戦機会を許さない,と。アウトサイドなフットボール・フリーク的にはもったいないと思いますが,そんなことも言っていられないだろう,と感じます。


 さてさて。インターナショナル・フレンドリーをキャンセルへと追い込んだこの暴動,直接的なきっかけは,警察官に黒人男性が射殺されたこと,にあるのですが,もうちょっとほかの要因もあるな,と感じます。


 経済減速が,実感できる環境にあって。さらには,国家財政の健全化を意図して,さまざまな緊縮策が実行に移されて。たとえば,大学の授業料が大幅に引き上げられたり,公務員の定数が大幅に削減されたり。(景気循環のタイミングとして,決して褒められたタイミングではない,というエクスキューズがあるのは当然としても)保守党政権になって以降,UKには重苦しい空気が漂っている,という印象は何となく感じ取れたところです。その重苦しさはやはり,移民により重くのしかかっていた,ということではないでしょうか。
 たとえば,1980年代と比較してみて,ロンドンはコスモポリタンとしての色彩を強めています。それまでもいろいろな国のひとたちが生活していた街ですが,いまは地区によって,明確にそれぞれの色が感じられるほど,多くのひとたちがいる。経済活動がそれなりに円滑に回っていたときは,多様性がポジティブに作用している部分が多かったようにも感じますが,どこかギクシャクしはじめたときに,いままでと同じようにポジティブな作用が継続するか,と。恐らく,大陸と同じ構図に嵌り込んでしまう,その危険性が高まってくるのではないでしょうか。
 そんな空気を敏感に感じ取っていたところに,警官の対応が発火のきっかけを与えてしまったのではないか。この暴動,恐らくは「抗議」という色彩から大きく変わってしまっているものと思います。


 どこかで,プレミアシップ創設のきっかけともなった,1980年代に重なる部分も感じさせ,そして同じ欧州でも大陸で問題となり続けている要素をも感じさせ。厄介な問題へとつながっていかなければいいけれど,と思うところです。