心中複雑な787。

ANAがローンチ・パートナーに選ばれた,ボーイングの最新鋭機であります。


 この787を開発,製造するにあたって,日本のメーカが大きな役割を担っていることは各メディアで報じられている通りです。ワシントン州に本拠地を構えるボーイング社のクレジットがあるけれど,重要部分を製造しているのは三菱重工川崎重工業,そして富士重工であり,さらには機体軽量化の鍵を握っているのは,東レ炭素繊維である,と。うれしくないわけもないのですが,それだけに心中複雑でもある,というのが正直なところです。


 今回はフットボールを離れまして,ちょっと遅ればせなお話にはなるのですが,ボーイング787のことを書いてみよう,と思います。


 さて。心中複雑な理由は過去のエントリでも書いています。


 重要な要素技術を担当する,それだけの能力を持ちながら,これらの要素技術をコーディネイトできていない。


 リージョナル・ジェットやパーソナル・ジェットのマーケットにはMRJ,そしてホンダ・ジェットが本格的なチャレンジを開始しています。MRJについては,787で担当した要素技術,その能力が間接的にせよマーケティングにポジティブな影響を与えるかな,と思うところはありますが,もうちょっと大きなヒコーキをコーディネイトする,という方向へと動き出せないのがいささかもったいない,と思うのも確かなのです。


 航空機についての技術を,ほぼ軍事方面だけに集中して投入してしまっていた,その代償なのかも知れない,と思いますが,航空機を手掛けていたメーカはことごとく,航空機産業からの撤退を余儀なくされます。メッサーシュミットが航空機製造から締め出されたのと同じ理由,であります。加えて,軍用機についての技術蓄積はあったとして,民間機開発についての技術が蓄積されていた,とは言いがたい(YS−11開発時に,民生機と軍用機との違いに苦労した,などという話を聞いたことがあります)。終戦直後を基準点として考えるならば,相当なハンディを背負っていたとも考えられるわけです。このハンディを,ボーイングは巧みに利用してきた,とも言えるでしょうか。航空機をコーディネイトすることを禁じられはしたけれど,航空機製造についての技術蓄積がないわけではない。そこで,「要素技術」に絞り込みながらその技術を提供してもらう,と。


 ある意味,「協力会社」としての位置付けだったように思うのです。


 この位置付けが,カーボン・コンポジットを構造材として採用することになった787では大きく変わってきた。恐らく,787に採用されているカーボンはいわゆる,ドライ・カーボンと呼ばれる素材でありましょう。たとえば,フォーミュラ1であったりLMPマシン,そのシャシーに採用されている素材であります。オートクレーブ,と呼ばれる高圧焼き入れ窯が必要な製法であり,恐らくオートクレーブの規模は相当に大きいはずです。実質的なことを言えば,ほぼヒコーキをコーディネイトできるだけの製造設備を持つに至っている,とも考えられるわけです。


 ヒコーキ,という市場の特殊性も作用しているのかな,とは思うのですが,ここまでの能力,環境があってもなかなか民間機,それも中型機よりも大型の民間機へと参入するのは難しい。このことを思うと,ちょっとばかり心中複雑になってしまうのです。ならばせめて,中型機よりも小さなヒコーキ市場で,MRJやホンダ・ジェットが確固たる存在感を示してほしい,とより強く思ってしまうのです。