対G大阪戦(11−02)。

かつての浦和,そのフットボールが垣間見えた試合ではないでしょうか。


 04スペック的なプレッシング・フットボールを感じさせる時間帯があったと同時に,(熟成が止まってしまっているから,荒削りな印象を残していたのも確かですが)10スペック的なムービング・フットボールを感じさせる時間帯もあった。今節の対戦相手に対して,どのようなゲーム・プランを構築しておくべきなのか,というロジック・フローが一定程度ピッチから受け取れた,という意味においてもポジティブに評価していい試合だと思うのですが,それだけに“11スペック”の軸を構築できているのか,という,最も基礎的な課題がまだクリアできていない,という部分が気になったりします。


 さて。いつも通りに,のG大阪戦であります。


 ごく大ざっぱに試合を考えてみれば,戦術交代によって直輝選手が入るまでのフットボールは,04スペック的な浦和ではなかったかな,と思います。中盤でのボール奪取勝負を挑み,あるいはポゼッション・ベースな攻撃を組み立ててしまうと,相手がイメージするボール奪取の形に引き込まれることになるし,ゲームのリズムを相手に掌握されることになる。相手が狙うフットボールへと引き込まれず,同時に先制点を狙うということを意識して,ボール奪取位置をちょっと高めにセットする。同時に,高い位置からのシンプルな攻撃を強く意識させる,というような感じのゲーム・プランを描いていたのだろう,と感じます。そして,前半は攻撃面と守備面,どちらにより強くウェイトを掛けていたかと考えれば,守備応対面に意識を振り向けていたようにも感じます。先制点を奪われて,相手へと傾いたリズムを再び自分たちへと引き寄せるには相当なパワーが必要となります。そういう事態に陥らなかった,という方向から見れば,確かに前半のゲーム・プランは機能していた。ただ,そのために攻撃面での分厚さがチームとして表現しにくい状態ではあったかな,と思います。
 

 スコアレスでハーフタイムへと入り,0−0の状態から再びゲーム・クロックが動き出します。


 立ち上がりの時間帯,どちらがリズムを引き寄せにかかるか,という視点で見ていましたが,リズムを引き寄せよう(=先制点を狙いに行く)という姿勢を押し出していたのは浦和であったように感じます。逆に,相手は浦和の出方を見極めながらチャンスを狙う,という方向性を意識していたように見えます。実際,先制点を奪取された局面は,チームが攻撃方向にウェイトを傾けていた時間帯に生じた隙を,相手に的確に突かれた結果,であるように感じるところがあります。チームがコンパクトさへの意識,特に守備ブロックでのコンパクトさへの意識を緩めてしまった時間帯を突いて,縦への攻撃を仕掛けてきた。


 この時間帯前後から,ディフェンス・ラインが前線の位置に応じて上下動を,というスムーズさを失いがちになり,マンマーク・ディフェンスのネガティブでもあるボール・ホルダーに引っ張り出されるような局面が増えてきてしまったように感じるのです。セントラル・ミッドフィールドがボール・ホルダーを捕捉,ファースト・ディフェンスを仕掛ける,という形に持ち込めていればいいのですが,セントラル・ミッドフィールドでのファースト・ディフェンスが緩い応対になってしまう,あるいはこのエリアでの守備応対を回避されてしまう(ポゼッションを狙うのではなく,比較的シンプルにカウンター・アタックを狙う)ような局面ですと,どうしても守備応対が安定したものになりにくい。ライン・コントロール,という部分で今季のファースト・チョイスは必ずしもコンパクトさを強く意識してラインを高めにセットするタイプではないので,相手が「飛び込んでくる」スペースを空けてしまうケースがあります。そこからマーカーについてディフェンスを仕掛けていくわけですから,そのディフェンスを外されてしまうとかなり厄介な局面をつくられることになる。先制点を奪われてからの時間帯は,チームが不安定さを見せていた時間帯,とも感じるところです。


 そして,直輝選手が戦術交代によってピッチへと投入されます。


 04スペックから,10スペック的なフットボールへと軸足が変わったような,そんな印象を受けました。戦術交代にあって,なかなか複数のLEDボードがフォースによって掲げられることは多くない,と思うのですが,今節の戦術交代は,ピッチへのかなり明確なメッセージとして(結果として,かも知れませんが)機能したように感じます。もともと指揮官が意図するフットボール,その距離感とは違うかも知れないけれど,パス・レンジがロングレンジからミドルレンジ,あるいはショートレンジへと変わっていくと同時に,スペースを意識した機動性,連動性が表現されていく。「勝ち点0」という状態から「勝ち点1」を確保できる状態へとゲームを引き戻し,さらには「勝ち点3」をうかがいうるような状態にまでチームを引き上げる。今節も,物理的に獲得できた勝ち点は1にとどまるわけですが,必ずしもネガティブに捉えるだけでなくともいい,そんな勝ち点1であるように感じます。


 ただし。根幹に関わる部分での課題はまだ積み残されている,とも感じるところです。


 現状においては,リアクティブなゲーム・プランを描くことはできても,仕掛けていくゲーム・プランを描くには不足している要素がある,と。当然,11スペックの浦和,であります。


 パッケージ的には4−4−2(個人的には,4−4−2フラットと4−4−2ウィングの中間,という印象を持っています。)で固定されつつありますが,現状においてはかなりフットボールの「振れ幅」が大きい,という印象です。今節で言えば,前半に表現されたフットボールと後半,しかも戦術交代後の時間帯に表現されたフットボールとの振れ幅が,意図したものかどうかは別としてちょっと大きいように思うわけです。


 柔軟性やスカウティングを通じた戦術の微調整,という要素は,昨季以前は落ちてしまっていた要素ですし,フットボールが対戦相手があってはじめて成立する競技であることを思えば,機能すべき要素がしっかりと機能している,と評価すべき部分も当然にあります。ありますが,微調整を施すべき自分たちのフットボールが,まだ明確なイメージを形作っているとは言い切れない。
 ムービング・フットボールがいまのチームにあっても,しっかりと武器となり得ることは表現できている。であれば,ムービング・フットボールへと持ち込むための「自分たちの軸」を感じられるようになれば,チームにとって大きな足掛かりになってくれるのではないか,と思うところです。