対福岡戦(11−17)。

現実主義的な対応を織り込んだ,昨季型のフットボール


 「勝ち点3」奪取へと結び付いたこのフットボールは,果たして指揮官が「狙って」ピッチへと描き出そうとしたものなのか。意図したものであるならば,戦術交代後のパッケージをなぜ早い段階で構築しようとしなかったのか。


 もともと指揮官が描き出そうとしたフットボールでは,「個」の強さが大きく位置付けられていて,コンビネーションという要素はそれほどの重要性をもって位置付けられてはいなかった,ように少なくとも受け取れます。組織的なフットボールであろうとも,個の能力は当然に要求されるべきだし,個を強く押し出すフットボールであろうとも,組織的な約束事が抜け落ちてしまえば個を表現するための前提が欠けることにもなります。要は,バランスをどのポイントに求めるか,ということだろう,と思うのですが,現任指揮官がイメージするバランスは,浦和の戦力を冷静に眺めた結果としてのバランスとはズレを生じていたように感じます。


 このズレを「意識的に」修正したのか,たまたま「修正されてしまった」のか。結果として同じだとしても,「再現性」に大きな影響を与える話ですし,後半,ピッチに表現されたフットボール,あのフットボールに対する評価にも影響してくる話です。


 いつも通りに,ではありますが,ちょっと難しい話からはじめてみました。福岡戦であります。


 さて,今節はパッケージの話,というよりはメンバー変更からはじめますと。


 やはり,大きな意味を持っていたのは直輝選手と秀仁選手がスターターとしてクレジットされたこと,でありましょう。といって,すでにスターターが各方面で「見えていた」というのは,チーム・マネージメントにとってネガティブだ,と思いますし,「見える」状態をクラブとして放置している,そのことにも大きな疑問を感じます(こういうことをメディアとの良好な関係と言うのであれば,それもまた歪んだ話だ,と)。
 話戻しまして。中盤に「機動性」という要素を意識付けるようなフットボーラーをピッチへと送り出してきた。表面的に理解するならば,ここまで指揮官が狙ってきたフットボールを,機動性を高め,距離感を変化させる方向へと微調整してきた,ということになりましょう。


 ただし。前半段階ではこの中盤の機動性は強く印象付けられるものではありませんでした。


 むしろ,トップの機動性を活かして,相手守備ブロック背後のスペースを突く,という戦術的なイメージを徹底してきたように映りますし,その結果として中盤が省略される時間帯がかなり多かったのです。リアリスティック,というのはこの部分です。相手は,守備ブロックをしっかりと構築しながらチームを低めに構えて,相手にボールを「持たせる」戦い方ではなく,高い位置から積極的にボール奪取を仕掛けていく戦い方を指向しています。そのために,ボール奪取での数的優位を狙ってチームをコンパクトに維持することが求められてきますし,となるとディフェンス・ラインも比較的高い位置を取ろうとする。このラインを押し下げること,彼らが狙うボール奪取位置での勝負を避けることを狙って,前半の戦い方を組み立てていたようです。


 続いて後半の印象でありますが。


 端的に書いてしまえば,11スペックな浦和ではなくて,10スペックな浦和をピッチに描いてきたな,と思います。攻撃ユニットの距離感も,11スペックで狙っていたはずの距離感ではなくて,“サポート”という言葉を使える距離感へと縮めてきていますし,さらにはシンプルなワンタッチ・パスとフリーランを組み合わせることで相手守備ブロックの隙を狙い,フィニッシュへのタイミングを狙う。先制点を奪取した局面もそうですし,後半ピッチに描き出していた攻撃,その形は「縦に鋭く」攻撃を仕掛ける,というフットボールでもなく,相手ディフェンスと1対1の勝負を仕掛けていく,というフットボールでもありません。ユニットとして攻撃を仕掛け,フィニッシャーがボールをゴール・マウスへと置いてくる,そのためのスペースと時間を作り出すフットボール。今節,ダッグアウトから戦況を眺めることになったフットボーラーも,戦術交代後のプレーを見る限り,この後半のフットボールにフィットしているように映ったし,持っているパフォーマンスを引き出しうるフットボール・スタイルであるように映った。


 勝ち点3という足掛かりにつながったフットボールではあるのですが,11スペックを念頭に置くと困ったことになる,というのも確かかな,と思うのです。11スペック的な攻撃,あるいは守備応対が「いまの」戦力構成にフィットしているのかどうか,という問題も当然ながらにあるし,この結果を引き出したフットボールを,指揮官がどのように評価するのか,という部分もあります。


 フットボール・コーチという存在は,理想を高く掲げながらも現実的な手法から決して大きく離れない,と思っています。理想が,結果を引き出すためのアプローチとして適切でないのならば,リアルを選択することを躊躇わない,と。いまの浦和にとっての「リアル」がどのようなものなのか,今節である程度提示されたものと思います。その提示されたリアルを,どう自分の理想と折り合わせるか。その折り合わせ方が,このあとに控える厳しい試合につながっていくものと思います。