Stanley Cup Final 2011.

暴れてはいかんだろう,というのは大前提としても。


 暴れたくもなるような,短期決戦の戦い方であったことも確かですね。端的に書いてしまえば,「詰めが甘い」戦い方だったのですから。ただ,このことを逆側から見てみれば,よく踏みとどまったな,と思いますし,短期決戦で鍵を握るゲーム,そのゲームを巧みに引き寄せられた,ということにもなりましょう。



 今季は取り上げるタイミングを逸してしまって,最終的な結果が出た段階で初エントリ,でありますが,アイスホッケーな話であります。“Champions”の称号を懸けて戦う短期決戦,スタンレーカップ・ファイナルであります。


 まずは,“Runner-up”であるバンクーバー・カナックスのことから書いていきますと。


 スタンレーカップを「奪取しなければならない」シーズンに見えたとしても不思議はないかな,と思います。アメリカン・スポーツではありますが,敢えて欧州的なスタンディング(NHLオフィシャル・英語)を持ち出してみると,最も安定して2010〜11シーズンを戦い抜いてきたチームであり,フットボール(もちろん,アソシエーション・フットボールであります。)的な感覚で見れば,カナックスが“Champions”という称号を得るに相応しい,と思いがちであります。ありますが,アメリカン・スポーツのリーグ戦は欧州的なリーグ戦と同列に見るべきではない,という事情も作用しているから難しいのです。そのことはちょっと下で書くとして。


 アメリカン・スポーツはレギュラー・シーズン終了後が難しいのでありまして,NHLはその難しさがより際立つようにも感じられるところです。プレーオフと呼ばれるポストシーズンですね。短期決戦を繰り返していくわけですが,その短期決戦を駆け抜けられないと,スタンレーカップへとたどり着くことができないのです。で,カナックスですけども。


 第1戦,第2戦を制することで,この短期決戦を駆け抜けるだけのリズムを持っているのかも,と思わせたのですが,そのリズムをしっかりとブルーインズは断ち切ってきます。第3戦で逆襲へのきっかけをつかむと第4戦でシリーズ・スコアをイーブンな状態へと引き戻されてしまう。それでも,第5戦で再び勝利をつかみ,あとひとつにまで漕ぎ着けるわけです。問題はここから,で,再びボストンが3−3のたいへと引き戻してくるわけですが,彼らの攻撃力をまともに受け止めてしまったかのようなスコアで並ばれてしまう。アウトサイドから見る限り,この第6戦が最も大きな鍵を握った試合でしょうし,ボストンはバンクーバーを振り切るための加速態勢を手に入れた,ということになりましょう。


 そのボストン・ブルーインズであります。


 再び欧州的なスタンディングを眺めてみますと,意外な位置にいるな,という感じがします。ここがアメリカン・スポーツの難しさで,あくまでもリーグ戦は「ディビジョン単位」での総当たり制なのです。実力が拮抗したディビジョンだとすれば,勝ち点をそれほど大きく積み上げることはできないし,その逆もあり得るわけです。このスタンディングから読み取れるのは,2010〜11シーズン,ブルーインズが戦ってきたディビジョンは「勝負権」を持ったチームが複数あった,ということ。そんな状態を勝ち抜いてきた,と言うべきなのだろう,と思うわけです。


 で,そんな印象はポストシーズンにも共通するところです。


 モントリオール・カナディアンズとの第1ラウンドもシリーズ・スコアは4−3ですし,タンパベイ・ライトニングとの第3ラウンドも同じく4−3。スムーズにスタンレーカップ・ファイナルへと上がってきた,と言うよりはギリギリの勝負をしながらファイナルへと駒を進めてきたわけです。この経験がファイナルに生きた,という見方もできるかな,と。先手を取られても冷静に距離を詰めていくことができていたし,相手に,「あと1ゲーム」という位置にまで追い込まれても冷静に第6戦へと入っていくことができていた。しかも,その第6戦では自分たちの攻撃力を存分に表現してもいる。自分たちの形で加速できなかったとしても,決して主導権を奪うことまでをあきらめない,と。相手が隙を生じるタイミングを冷静に待って,その隙を的確に突く。


 7戦を使い切ってでも,奪取すべきものを奪取する。


 ボストン・ブルーインズは,スタンレーカップをはじめて掲げた,とのことですが,今季の戦いぶりを振り返ってみると,初戴冠とは思えないような勝負への姿勢があるな,と思います。ポストシーズンを駆け抜ける,という印象とは好対照だけれど,彼らの戦いもまた,アイスホッケーの魅力をプロモートしてくれるものではなかったかな,と思うのです。