LE MANS 2011(LMP1版)。

伝統あるレース,ですが,過酷なレースでもある。


 そんな側面を,今季も見せていたように感じます。あくまでもガソリン・エンジンにこだわりながらル・マンへとファクトリーで乗り込んできたアストン・マーティンはごく序盤でその姿を消してしまうし,アウディスポルトも2台を失う。LMP1では17台がエントリしていたのですが,実際に24時間を走り抜き,フィニッシュ・ラインを通過できたのは7台のみ。その7台中,4台までもがプジョーであったというのは,プジョー・スポールの安定感を端的に示すものかな,と思います。


 さて。今回はフットボールの話ではなく,ル・マン24時間の話を書いていこう,と思います。思うのですが,今季に関しては注目ポイントが総合優勝だけでなく,LMP2マシンの戦いにもありましたので,LMP1とLMP2を分けて書いていこう,と思います。


 まずは,LMP1にフォーカスして書いていきますと。


 ここ数季,総合優勝への勝負権はレーシング・ディーゼル勢が掌握し続けてきたのですが,今季開幕前にはガソリン・エンジン勢とのバランスが見直されていました。そんな流れを意識してか,アストン・マーティンは敢えてガソリン・エンジンでLMP1を仕立てる,という判断をしてきていました。ただ,予選段階にあってもタイム差がかなり明確にある。今季も勝負権を掌握しているのはプジョー・スポールにアウディスポルトだけなのではないか,という懸念を持ったのですが,実際にレースが動き出すとさらにガソリン勢とのタイム差は明確なものとなっていました。


 オフィシャル・タイミング(ル・マンオフィシャル(フランス語))をちょっと見てみますと。


 たとえば,総合優勝を飾ったアウディR18が記録したベストタイムは,3分25秒台前半であるのに対して,同じLMP1マシンでガソリン勢の最上位となったローラ・トヨタは3分36秒中盤がベストです。最大で11秒離されるわけですから,これは厳しいものがあります。グループC時代からの難しさ,でもあるのですが,スポーツ・プロトタイプは単純に「速い」だけでは勝負権を保持できないのです。タイア攻撃性をどれだけ低減できるか,燃料消費率をどれだけ改善できるか。つまりは,レーシング・マシンのパフォーマンスだけに意識が傾いていても意味がなく,どれだけ「バランスの取れた速さ」を長時間維持できるか,が求められるのです。であれば,レース・マネージメントなどを含めて,チームの持つ総合力が「強さ」を導く大きな要素になるのです。冷静にレーシング・ディーゼルを見てみると,やはり燃料消費率でアドバンテージを持っているな,という印象です。たとえば,プジョーのピットストップ回数を見てみると,ガソリン勢よりも少なく抑えることができています。それでも,ベストタイムとしてはガソリン勢を上回っている。このような部分を見ると,今季にあっても総合優勝への勝負権は,実質的にプジョー・スポールとアウディスポルトが掌握していた,と言うべきかな,と思います。


 そこで,プジョーアウディの戦い方を振り返ってみると,アウディの戦い方が「らしくなかった」,と感じてしまいます。
 オートスポーツさんのニュース記事にはGTEドライヴァのコメントが取り上げられていますが,アウディ勢は速度差のあるマシンとの接触によって2/3のマシンを失う結果となっているのです。「速さ」でプジョーと勝負しようとした,という理解もできるかと思いますが,だとすれば耐久の戦い方としていささかリスキーではなかったか,と。最終的に優勝を飾ったのは確かですし,そのマシンをドライブしていたのはロッテラー選手にトレルイエ選手と,日本との縁が深いドライヴァですからうれしくないはずもないのですが,今季に関してはヨーストらしからぬ,「速さ」だけに意識を振り向けてしまって「焦り」を感じる,ドライヴァへのコントロールがあまり機能していなかったレース・マネージメントだったような気がします。
 対して,プジョー・スポールは冷静に戦っていた,という印象です。もちろん,勝負所での「速さ」を表現し切れていなかったから優勝とまでいかなかった,という評価も成り立つかな,とは思います。思いますが,24時間経過時点でアウディとのタイム差が13秒強,という結果を見ると,彼らの冷静な戦い方もひとつのアプローチだったかな,と個人的には思うところです。そして,マクラでも書きましたが,「完走率」の高さは評価されるべきだろう,と思います。プジョー・ファクトリーがグリッドへと送り出したマシン,そしてプライベティアへと提供したマシンがすべてフィニッシュ・ラインを通過できている,というのは(フィニッシング・タッチに足らざる部分があったのは確かだとしても)プジョー・スポール,そしてチーム・オレカのレース・マネージメントに負うところが大きいように思います。


 ・・・やはり,長くなってしまいました。国産メーカの「代理戦争」という側面を見せていたLMP2については,次回のエントリで,とさせていただきます。