対山形戦(1回戦第1戦)。

不思議な話,ではあるのですが。


 戦術的な約束事が変化した今季にあっても,浦和というパッケージを機能させるために必要な要素,という部分では変わっていないのではないか。「継続」ではなくて,「変化」を選択したわけですが,実際には「継続」すべき部分を継続していかないと今季の「変化」をしっかりと表現できるわけではない,と。そんな「既視感」とも何とも付かない印象を持っています。


 カップ戦ではありますが,相変わらずの更新パターンでございます,な山形戦(1回戦第1戦)であります。


 単純に「1回戦」ではないところがナビスコカップらしさでありまして,この試合結果がダイレクトに2回戦に,というわけにはいかないのでありますが(90分ハーフの前半が終わったようなもの,などと表現されますね。),11スペックな浦和が機能するにあたって,何が必要なのか,が見えた「重要なテスト」でもあったのかな,と思っています。そんな視点で(加えて,ちょっと「ひと」にフォーカスしながら)試合を振り返ってみよう,と思います。


 まずは,守備応対面を振り返ってみますに。


 「コンパクト」にチームを維持できていた,というのがまずは大きな意味を持っていたように思います。FWから守備ブロック,という「縦」の距離感が縮まってきたことで,ファースト・ディフェンスを仕掛けるという守備応対の初期段階から,ボール・コントロールを奪い返して攻撃へ,というシークエンスがスムーズになった,という印象を持っています。そして,CBが「アタック&カバー」という関係性を取り戻していることも,この試合で大きな意味を持っていたように感じます。暢久選手がCBのポジションに入っている,ということがひとつの鍵であったように思うのです。


 リーグ戦でのCBは永田選手とマシュー選手,というコンビが11スペックでの基盤になっていたように思います。端的に書けば,「高さ」と「強さ」を意識したコンビネーションだろう,と思うのですが,「アタック&カバー」という関係性でこのコンビネーションを見ると,役割が相当程度に重複してしまっているという印象があります。永田選手にしても,マシュー選手にしてもストロング・ポイントが相手ボール・ホルダーへアプローチを仕掛けていく形での守備応対よりも,カバーリングという側面の強い守備応対にあるようで,どうしても「受け止める」守備応対になりがちだな,と見ていました。浦和が本格的に4へと移行しようとしていた時期,やはり“ライン・コントロール”という側面で課題があった。CBの機動性が,アタックという要素よりもカバーリングという部分に傾いていたからだと思うのですが,ちょうどそんな時期の4に相似するような印象を持っていたわけです。で,ライン・コントロールよりもカバーリングへの意識が強いことで守備ブロックが低めの位置に固定されがちになり,攻撃ユニットや中盤が意識するエリアと守備ブロックが意識するエリアとに「ズレ」を発生させやすい,チームの距離感を悪化させる側面がある,と。


 今季のフットボールは,相手ゴールにより近いエリアでボールを奪い,シンプルに縦に,という戦術イメージを持っているように思います。リトリートか,それともプレッシングか,という大ざっぱな分類で言えば,プレッシング・フットボールに分類されるのかな,と見ていますが,11スペックな浦和をここまで見ていると,狙っていないはずのリトリートで表現されている時間帯がいささか多くて,どうも印象がブレているように感じます。現任指揮官が狙うフットボール,その戦術的な要素と,その戦術的な要素を表現するための「個」,この双方にズレがあるな,と思っていたわけですが,そのズレがこの試合では相当程度軽減された。暢久選手がCBとしてピッチに表現した要素は,今季の浦和を機能させる,鍵のひとつだろうと思うのです。


 続いて攻撃面,の前にゴーリーの話を。


 この試合,山岸選手から加藤選手へとスターターが変更されました。この変更,現任指揮官がどう感じるかは別問題としても,アウトサイドが見る限りにおいては11スペックな浦和にとって,鍵になりうる存在ではないかな,と感じるものがありました。
 11スペックな浦和は,できるだけ高い位置にチームを,という意識を本来持っていたはずです。チーム全体がビルドアップしながら同時にポジションを上下動させていく,という戦術イメージではなくて,ゴーリーからのリスタート,その前段階でスッとチーム全体がポジションを上げていく,というイメージなのではないかな,と思ったのですが,どうも実際にはその「スッと」が機能しなかった。攻撃ユニットもビルドアップしながらポジションを上げていく,というイメージに傾いていたようだし,守備ブロックもゴーリーからのパスを受けるためか,ポジションを上げるというよりはゴーリーに近い位置を取りがちでした。そのために,速攻を仕掛けられる局面であっても遅攻だけ,であったり,その遅攻がスムーズさを欠いているなど,(ネガティブな意味での)昨季以前のフットボール,その課題をキャリーしているような印象を受けていたわけです。
 そのイメージが,この試合では相当程度抑え込めているのではないか,と感じます。「個」としてのパフォーマンスではまた別の評価も成立するか,と思いますが,今季のフットボールを表現するにあたって,という見方をするのであれば,現任指揮官を迷わせるだけの表現ができているのではないかな,と思うのです。


 で,攻撃面の話でありますが。


 やはり,浦和にとっての“ミッシング・ピース”,重要な鍵は直輝選手だったのかも,という思いがあります。と同時に,パラレル・ワールドな話ではあるのですが(戦術交代によってピッチを退いていましたから。),柏木選手との「使い使われ」という関係性が見たかった,という思いも。
 11スペックな浦和は,「個」が勝負できるためのスペースを,という発想からポジショニング・バランスを意識させる,という方向性を打ち出していたように思います。思いますが,その「スペース」をどのようにして自分たちが仕掛けやすいスペースにしていくのか,という部分でまだまだ煮詰めるべきイメージがあるな,と思いますし,フットボーラーのアイディア,イメージが生かせる要素があるのではないか,と思うところがあります。柏木選手も,そんな意識でピッチに立っているのかな,と思うのですが,自分がその機動力でスペースを,というアプローチではなくて,厳しいパスで何とか局面を,という意識になってしまっているから,どうも悪循環に嵌り込んでいるようにも感じます。その悪循環を断ち切るきっかけが,直輝選手のように「機動力」を持ったミッドフィールドではないのかな,と思うのです。ポジショニング・バランスを意識させるフットボールでありながら,そのバランスを「意図的に」崩すようなフットボーラーがピッチに送り出される。表面的に見れば,不思議な話になるかも,なのですが,実際にはチームの機動性を引き出すことになった。これまた,現任指揮官を(いい意味で)迷わせてくれるのではないかな,と思うのです。


 さて。この試合は「偶然」かも知れませんが,今季なかなかクリアできなかった課題をクリアする,そのためのきっかけであったり鍵が複数提示されたように,個人的には感じます。単純な「個」ではなくて,ジェリコさんが描く戦術を表現するためにより適合的な「個」がスターターとしてクレジットされてきたのかどうか。ある意味で「基礎的な要素」なのですが,そんな基礎からちょっと見直すべきなのではないか,と思わせる試合でもあったな,と思うのです。