レッドブルとインフィニティ。

ちょっとだけ,パラレルワールドな話をすれば。


 可能性がゼロではないな,と感じた時期は確かにあります。スポーツ・プロトタイプの車両規定が,ターボから自然吸気へと変更となった時期,です。確か,このときCPに搭載されていたエンジンはV8のツインターボであるVRH。グループC規定のエンジンとしては,かなりの完成度を持っていたエンジンです。このエンジンをベースにして自然吸気化,というアプローチを取らず,彼らはV12を新規に開発,NP35に登載してテストをしていた,ようですが,実際にはグループCへと戻っていくことはなかった。このエンジンが,たとえばV10であるならば,可能性はゼロではなかった,と言いますか,可能性がちょっとだけ高かった,かも知れません。


 しかし。彼らにとっての優先順位はモンテカルロの市街地コース,ではなくて,サルテにあったとも言えるはずです。新たなグループCは,カウルを装着したフォーミュラ1,とも位置付けられるようなデザイン・トレンドへと変化していきました。対して彼らは,ル・マンでの耐久性を最優先項目とした(ように,少なくともアウトサイドには感じられる)デザインをNP35に採用していました。当然,エンジンも振動などの特性面を意識してV12を採用したはずで。となると,フォーミュラへの進出はよほどのことがない限り,と考えたわけです。


 それだけに,個人的にはかなり意外な取り合わせ,でありました。いささか長いマクラとなりましたが,今回もオートスポーツさんのニュース記事をもとに,レッドブルとインフィニティのパートナーシップについて書いていこう,と思います。


 さて。レッドブルのカウリングを見るに,かなりインフィニティのエンブレム(正確にはデカールでありますが)が存在感を示しています。そうなると,ルノーからエンジン供給がインフィニティ(と言いますか,日産と言いますか)へと変更を受けたのか,となりますが。実際にはエンジン供給を担当しているのは相変わらずルノーであって,インフィニティが担当するわけではない,と。ならば,いわゆる“バッジ・エンジニアリング”,たとえばイルモアのエンジンにメルセデスのバッジが取り付けられたというケースのように,ルノーが開発を担当しているエンジン,そのカム・カバー部分のロゴがルノーからインフィニティへと変更を受けるのか,と考えるところですが(海外メディアはこのような報じ方をしたそうです。),ということもない。違った領域での協力を取り付けたい,という動機がレッドブルにはあり,その「違った領域」というのがバッテリなのだ,と。


 なるほど,であります。


 つまり,KERSであります。


 ごく大ざっぱな言い方をしてしまえば,運動エネルギーを回収するシステム(電車の回生ブレーキのイメージ,に重なるところもありますか。)でありますが,このシステムがあまりに大きいとレーシング・マシンにとっては大きなハンディであります。フォーミュラ1も例外ではありませんが,レーシング・マシンの基本デザインは空力特性を最適化させる方向性でまとめ上げられますし,各ユニットも空力特性という方向からの拘束を受けることになります。そして,物理面を考えると重量は可能な限り軽く仕上げたい。キャパシタであったりモータ,あるいはバッテリが高効率であること,そして軽量であることが求められてくるはずです。そのときに,モータやバッテリの技術を持っているのは,と考えたときに,ルノーのパートナーである日産がひらめいた,のでありましょう。“リーフ”ですね。EVを実用化するに当たっても,バッテリは大きな鍵を握ります。容量がたっぷりあるとしても重量面,あるいは物理的な大きさがクルマへの搭載に相応しくないと意味がないし,当然重量がかさめば航続距離へと悪影響を及ぼすことになります。このあたり,かなりバッテリ・メーカとの共同開発体制がしっかりと構築されているでしょうし,この技術蓄積はシャシーコンストラクターであるレッドブルにとってはある種の魅力として映った,のでありましょう。


 それだけに,オーストラリアGPで「革新的なKERS」(どうやら,イメージするとハイブリッドを過給器的に使うやり方と重なるようです。)を持ち込むのでは,とか,実戦投入するのでは,などという話があったようですが,インフィニティとの技術提携がしっかりとした形になるのはもうちょっとだけ先のこと,ではないかな,と個人的には感じるところです。