VK45、ILMCを主戦場に。

日産を代表するレーシング・エンジンと考えると。


 やはり,RB26という方も多いか,と思います。国内選手権で圧倒的な存在感を示し,国際舞台でもスパ・フランコルシャン24時間耐久やギア・レースなどでポディウム中央のポジションを奪ってみせた。けれど,国際舞台で大きな存在感を示せたか,となると,「遅れてきた最強エンジン」とも言えるでしょうか。国内選手権で見るならば,RB26がグループAに引導を渡した,と見ることもできますが,欧州視点で見ると,すでにフォード・シエラとBMW・M3によってグループA規定は行き詰まっていた,と見ることもできます。この状況を打開すべく自然吸気エンジンのクラス2へと移行しはじめた時期でもあって,活躍の舞台が狭められてしまった,という印象も強いものがあります。


 もうひとつ。スポーツ・プロトタイプに搭載されたVRH35も日産を代表するレーシング・エンジンではないかな,と思います。技術規則によってグループC,そして国産メーカが大きな目標としていたル・マンへの道を閉ざされたものの,デイトナ24時間で圧倒的なパフォーマンスを見せ付けた,そのエンジンであります。


 国際舞台に躍り出ようとして,実際にはタイミングを逃し続けてきた。


 歴史を振り返ってみると,そんな印象を持つところもありますが,今回の話を見ると,実績あるレーシング・エンジンに新たな活躍の舞台が与えられた,という感じですし,すごくいい話だな,と思うのです。


 いつもよりも長めのマクラでお分かりかと思いますが,フットボールを離れまして,オートスポーツさんのニュース記事をもとに書いていこう,と思います。


 ごく大ざっぱにこちらの記事を要約しますと,2011シーズン,欧州日産はフランスに本拠を置く“シグネチャ・グループ(ILMCのエントリー・リストにはシグナテックと表記されているようです。)”とパートナーシップを締結,GT選手権に持ち込まれていたVK45を供給する,とのことであります。で,シグナテックはILMCシリーズと,ル・マンのLMP2クラスに参戦する,と。


 このVK45,ZやGT−Rに搭載されてスーパーGTを戦っていたエンジンでした。が,技術規則の変更(排気量縮小,であります。)により退役,となっていたエンジンであります。そのエンジンと,「量産エンジンをベースとすること」とするLMP2の技術規則が嵌った。そのことに気付いているシャシーコンストラクターも結構あって,搭載可能なエンジンには,(実際に日産との供給契約がまとまるかどうか,が大きな問題だと思うのだけれど)VK45,とクレジットもされていたのです。で,実際にシグナテックが日産との契約に漕ぎ着けた,と。


 残念ながら,プジョーアウディと真っ向勝負,のLMP1ではありませんが,国産メイクスがまたひとつ,スポーツ・プロトタイプに戻ってきたことは,モータースポーツ・フリークとして歓迎したい話であります。LMP2には,すでにHPD(北米に本拠を構える,ホンダのレース活動を支える会社)がエンジン・サプライヤーとして関わっていますし,トヨタもLMP1マシンにエンジンを供給しています。不思議なタイミング,とも言えますが,今季は国産メーカが,いままでのアプローチとは違った形で選手権にコミットし始めた,その取っ掛かりのシーズン,と見ることもできそうだな,と思うのです。


 ワークスが真正面から勝負を挑む,その雰囲気は確かに魅力的です。


 でありますが,選手権がワークスだけのものになる,というのも何か違うような気がします。ワークスの存在感だけが突出して大きくなって,反対に長く選手権を支えてきたプライベティアの存在感が希薄になる。なるだけならばまだしも,プライベティアが駆逐されかねない状態になる。そうなると,ワークスの動向が選手権そのものの動向を大きく左右することになる。かつてスポーツ・プロトタイプは,この道筋を忠実なまでにたどったわけです。


 もちろん,ワークス活動そのものを否定するつもりもない。トップ・カテゴリにはそれらしい存在感を持ったチームが必要だし,そのためにはファクトリーが前面に立つことも必要でしょう。ではありますが,選手権がファクトリーだけのものになってしまうことの危険性を感じもする。


 厳しく見れば,ワークス活動をするだけのバジェットが用意できなかったから,あるいはレース活動そのものに対する内部の理解,外部の理解がしっかりと得られないからやむを得ず,なのかも知れませんが,結果として国産メイクスが苦手,にしているように見える「側面支援」に落ち着きつつある。いままで,ワークスだけにこだわってきたように映るメーカから,いろいろな関わり方が見えてきている,というのはいいことであるように思うのです。