オリンピック競技場とハンマーズ。

大ざっぱに言えば,同じくロンドン東部ではありますが。


 ガンナーズがハイブリーからアシュバートン・グローブに「引っ越した」ことと同じように理解するのはちょっと難しい距離かな,と感じます。活動エリアを含めて本拠地を移転する,というニュアンスとも微妙に違うけれど,やはり「引っ越し」よりは「移転」に近いかな,と。


 アップトン・パーク競技場が持つ雰囲気,鉄工所と言いますか,造船所とでも表現したくなるようなスタンドの雰囲気が,HOKさんのモダンな雰囲気へと変わる(つまりは,ニュー・ウェンブリーやアシュバートン・グローブ的な外観)かも,というのは俄に信じがたいし,もったいない気もします。でも,ホスピタリティが一気に向上する,というのは評価すべきことでしょう。
 さて。今回はこちらのニュース記事をもとに,UKな話を書いていこう,と思います。


 ごく大ざっぱにこの記事を要約しますと,大会期間後のオリンピック競技場について,ウェストハム・ユナイテッドの移転計画を支持する旨,オリンピック公園を管理する会社が決定した,とのことであります。


 このオリンピック競技場に興味を示していたのは,ハンマーズだけではありませんで,ノース・ロンドンを本拠地とするスパーズも移転に向けた計画を打ち出していました。この2つのクラブ,ともに60,000人収容規模の競技場へと再整備する,という計画を打ち出していました。


 しかし。ここからが大きく違うのだそうで。


 UKメディアの記事をちょっと斜め読みしてみたところ,ウェストハムのアイディアを採用するに至った大きな要因は,コスト面と,各方面との協力体制だったようです。トットナムが打ち出した計画ですと,陸上トラックを潰して競技場をフットボール専用へと全面改修,陸上競技場(国立競技場,という表現が使われています。)をロンドン南部のクリスタル・パレスに再建築,となっていたとのことで,そうなるとかなりの追加投資が必要となりますし,オリンピックが開催された,ということを競技場から感じられなくなる,という部分でネガティブな評価をされたようです。
 対して,ハンマーズは陸上トラックを残した形で競技場再整備を計画している,とのこと。つまり,他競技との共存を意識していることを打ち出してきたわけです。この部分が好感されたようです。
 加えて,地元自治体(カウンシルですね。)やUKの競技団体,さらにはオリンピック委員会のセバスチャン・コーさんなどの支持を集めた,という部分も大きい要素である,と指摘されています。


 フットボールだけを考えれば,確かにセイン・ピスタは魅力的です。


 しかしながら,UKにおいてオリンピックをホストした競技場がどのようになっているか,を考えると,陸上トラックを残しておかないと,と思われるのも無理はない,と感じます。オリンピックにしてもワールドカップにしても,大規模な施設の後利用,は大きな課題です。もともと,相当なコストをかけて建設するわけですから,後利用にまで大きな投資を必要とする,というのは周辺の理解を得るには難しい。できるだけコストを圧縮しつつ,利用頻度を上げていく,というアプローチを取らざるを得ない,という側面もありましょう。オリンピック委員会や,施設管理会社のロジックはこんな感じでしょう。対して,ハンマーズ的にはアップトン・パーク競技場の全面改修にかかるコストよりも大幅にコストを圧縮できるものでなければ,実質的な意味は失われる。双方の意図がうまく重なってくれたことで,ハンマーズの移転計画が支持されるに至った,ということだろう,と個人的には感じます。