A1。

高級車には,大排気量の持つ雰囲気が重要である。


 なるほどな,と思わせる話です。エンジンが,その存在感を誇示するような使い方を,高級車の想定顧客層がするだろうか,と考えると,正反対でありましょう。無理に回転数を上げるような使い方はせず,低回転域からのトルクによって,余裕を感じさせるような使い方をするかな,と思うのですね。


 ただし。高級車には,大排気量「でなければならない」か,と考えれば,またちょっと答え方は違ってくるように思うわけです。ボディサイズが大きくなくても,エンジンが小排気量なものであったとしても,高級な雰囲気を持たせることはできるはずだし,大排気量な高級車を実際に所有しているひとが,市街地での取り回しなどを意識して,小さなクルマを,と意識することもあり得ない話ではありません。かつて,ヴァンデンプラ・プリンセスが示したように,「小さな高級車」は成立する話,だと思うわけです。その市場を,再び動かそうというメーカ,そのひとつはアウディであると言って,差し支えないようです。



 さて。今回はフットボールな話から離れて,webCGさんのニュース記事をもとに,アウディから発表された新車種,A1について書いていこうと思います。


 まず,デザイン面から見ていくとしますと。


 小さい,とは言いながら,アウディの文法に忠実なフロント・フェイスであります。ライト・ハウジングに特徴的なLEDを装備する,というのが最近のアウディでありますが,A1にあってもそんなライト・ハウジングが印象的です。シングルフレーム・グリルを含めての印象はA4的な部分も感じますが,スポーティな方向性を意識したフィニッシュが感じられて,A5的な部分をより強く感じるところです。視点をサイドに移すと,やはりアイキャッチな要素は“コントラストルーフ”であります。Aピラーからルーフサイド,そしてCピラーへと至るアーチを塗り分けているわけです。車体の面構成的にはそれほど奇を衒った要素を感じない(アクセントとしては,ドア下部を走るプレスラインでありましょうか),どちらかと言えばシンプルなデザインですが,カラーリングによって大きなアクセントを付けている。どこか,シトロエンDS3を思い起こさせる手法だな,と思います。
 エクステリア・デザイン面では既存車種との共通性を強く感じさせる一方で,インテリア・デザインはA1の個性が明確に表現されている,という印象を持ちます。A4やA6,あるいはA5などもどちらかと言えば,「角」なイメージでインテリア・デザインがされていたように思います。対してA1は,「円」なイメージを比較的多く落とし込んでいます。カジュアル,というほどカジュアルではないにしても,フォーマルなだけの印象を与えない。コンパクトらしい「軽み」とプレミアム性を折り合わせたデザイン・テイストだな,と感じます。


 続いて,ディメンションでありますが。


 この記事をまとめた生方さんによれば,A1はワイド&ショートなディメンションを採用しているとのことです。このワイドなディメンションがデザイン面ではA4,A5との共通性を強く感じさせる大きな要素として作用しているように思いますが,運動性能面で考えれば,ロール方向での車体安定性に寄与する部分も大きいはずです。逆に,ホイールベース(前後車軸間の距離)を見ると,決して短く設定されているような印象はなく,むしろ車体とのバランスで見るとホイールベースを長く取るように意識されているようです。加えて,オーバーハング(前後輪の中心から車体最前部,あるいは車体最後部までの距離)がかなり切り詰められていることがオフィシャル・フォトからも感じられますから,直進安定性をロング・ホイールベースによって確保すると同時に,重量物を車体中心方向に集めることで回頭性を確保する,という方向性が見えてきます。


 さてさて。お値段的には決してお安くはないモデルでありまして,ともすれば上級車種に,と考えたくなるところもあります。ですが,市街地にお住まいで,コンパクトなクルマの方が日常には便利だ,と思っている,いま大きなクルマをお持ちの方には,結構有力な選択肢かも知れないな,と感じるところです。