両校優勝(高校ラグビー決勝戦)。

レギュレーションで決まっていることではあるとしても。


 不思議と,「その先」を想像させてしまうホイッスルだな,と感じました。延長戦が用意されていないのは分かっていても,東福岡の監督,そして桐蔭学園の監督はどんな指示をチームに落とし込むだろうか,と。そして,チームがどのように延長戦へと入っていくだろうか,と。


 もちろん,純然たる仮定論であります。89回大会と同じく,東福岡と桐蔭学園とで戦われた高校ラグビー勝戦でありますが,まずはちょっと「両校優勝」に思うことなどを。


 60分プラスを経過して,マッチ・スタッツはまったくのイーブンです。トライ奪取数も同じならば,コンバージョン成功数もまた同じ。単純にスコアが同じであっても,トライ奪取数が違えば雌雄を決する要素になり得るのですが,この試合では比較すべき要素がすべて同じなのです。
 さらには,試合の流れ,という要素を含めて考えてみても,両校優勝という結論には理があるかな,と思います。桐蔭学園は前半の段階でしっかりと試合をコントロールしながら,そのコントロールを後半にまで持ち込むことができなかった。対して,東福岡は予想外の前半から,試合を動かす主導権を必死になって取り戻しにかかり,最終盤に試合をまったくの50/50に引き戻してみせた。主導権が桐蔭学園と東福岡の間を行ったり来たりして,その結果,ちょうど中間距離で止まった。そんな状態に見えるのだから,両校優勝は妥当性を持った結論,と思うところではあります。


 昨季の経験を生かして,前半の段階で主導権を掌握してきた桐蔭学園のゲーム・プランは相応に評価されるべきだし,相手に掌握されたリズムを冷静に引き戻し,終盤の時間帯には桐蔭ディフェンスを自陣深いエリアへと釘付けにしてみせた東福岡の攻撃力もまた,しっかりと評価されるべきでしょう。


 もちろん,厳しく見る必要性もあるでしょうし,ゲーム・コントロールでの問題点が両校優勝という結論に至る要素だった,と見ることもできるはずです。桐蔭学園に,そして東福岡に「足らざるもの」がある。桐蔭学園にしてみれば,相手を決定的に突き放すことができずに主導権を結果として手放してしまう。東福岡から見れば,相手に握られてしまったリズムを取り戻し,自分たちのラグビーへと相手を再び引き込むために時間が掛かってしまった。恐らく,このような見方もできるでしょうし,この試合で明確になった課題は,新たなチーム・ビルディングに際して大きな意味を持ってくれるはずです。
 ですけれど,桐蔭,そして東福岡が相手のストロング・ポイントを消し去るよりも,その強みを凌駕できるだけの「らしさ」を押し出そうと徹底して意識してきた,と(好意的に)理解することもできるかな,と思います。


 過去のトーナメントを振り返っても,高校ラグビーがもっとも魅力的な試合を展開してきたな,と思うところがありますし,その印象は90回大会にあっても変わるところはありません。地上波でしっかりとカバーしてほしかった試合もあるわけですが,この決勝戦ラグビーという競技の魅力をプロモートするに十分な,そんな試合だったかな,と思っています。