レビューとプレビューと(第90回(10〜11)全国高校選手権)。

どんなトーナメントでも,「もったいない」と思わせるカードがありますが。


 今季の高校選手権でも,「もったいない」と思わせる試合が複数ありました。


 言い換えれば,トーナメントを駆け上がろうと思えば「越えなければならない壁」が必ず立ちはだかるということになりましょうし,いわゆる強豪校はこの壁を越えていくために何が必要か,何をしなければならないかを理解しているようにも感じます。でも,それだけでは足りなくて,「結果」を引き寄せる何かを表現できないと,トーナメントという高峰を陥れることができずに,途中で止まらざるを得なくなる。


 決勝戦への切符を奪取した桐蔭学園,そして東福岡もやはり,「越えなければならない壁」を通り過ぎてきているな,と感じますし,それだけに決勝戦が楽しみであります。と,まとめに入ってしまいましたが,楕円球な話,高校ラグビーな話を書いていこうと思います。


 さて。3回戦以降を俯瞰してみますに。


 思うよりも,「西高東低」な勢力地図のバランスは修正されてきているな,と感じます。確かに東北勢などが少ないな,と思うところはありますが,一時は関東勢の存在感があまりに希薄だった状態から,存在感を取り戻すところにまでは戻ってきているように思えます。
 それだけに,西高東低なバランスを崩す,そのきっかけはつかみつつあるかな,と見ています。あとは,QFで「乗り越えていくべき壁」が乗り越えられるかどうか,でありましょう。この壁を越えられるチームがもっと出てくると,勢力地図は本格的に書き換えられることになるのかな,と,関東在住なラグビー・フリークは感じるわけです。


 では,決勝戦への切符を奪取したチームの戦いぶりを振り返ってみます。


 まずは,東福岡であります。彼らのプレー・スタイルを見ると,チーム・ビルディングのアプローチがトータル・バランスを重要視しつつ個の強さも,というように,ブレイブルーパスとの共通項がどこかに感じられて,確かに優勝候補の最右翼だな,と実感させられるものがあります。
 大阪桐蔭との3回戦では,相手に先手を取られ,ビハインドを背負った状態でハーフタイムを迎えることになるのですが,後半に入るとリズムをしっかりと掌握,準々決勝へと駒を進めます。準々決勝での対戦相手は,伏見工であります。この試合,東福岡は3回戦を意識してだろうと思いますが,自分たちでゲームを動かしていく,という意識を徹底させていたものと感じますし,スコアからもそんな意識は感じ取れるところです。が,伏見工もリズムを簡単には譲らない。ファイナル・スコアで見ると8点差が付いていますが,トライ奪取数で見れば1トライ差,さらにコンバージョン成功数が絡む形での得点差でありますから,思うよりも僅差であった,と言うのがフェアだろう,と思います。そんな僅差のゲームを乗り越えて,関西学院との準決勝では「らしさ」を存分に表現してきた。決勝戦に向けての流れは悪くないだろう,と思うところです。


 対するは,桐蔭学園であります。


 常総学院との3回戦では攻撃力を印象付ける戦いぶりでありましたが,東海大仰星との準々決勝は文字通りの僅差の試合でありました。思うに,最も厳しい壁が東海大仰星だったのではないか,と思うところです。ちょっとゲームを振り返ってみると,前半のリズムを動かしていたのは東海大仰星で,桐蔭学園はそのリズムを引き戻そうとしていたものの,リズムをイーブンな状態へと引き戻すことができずにハーフタイムを迎えてしまった,という印象です。では,後半にリズムを引き寄せることができたか,と考えると,リズムを引き寄せるにはちょっと時間が掛かってしまっています。それだけ,東海大仰星が的確なマネージメントをしていた,ということになりましょうが,そのマネージメントの綻びを突いて,ゲームをひっくり返すことに成功します。そこでリズムを握ったままにゲームをクローズしていく,というわけにはいかず,薄氷を踏むような形で準決勝への切符をつかんだ。通り抜けていかなければならない壁,と表現するには難易度があまりに高い壁を,ギリギリで越えてきた,という印象を持ちます。そして,大阪朝鮮との準決勝も(ラグビー的には,ですが)僅差のゲームだったという印象を持ちます。攻撃力,という側面では存分に表現できているという感覚を持っていないかも知れませんが,ゲームを丁寧に動かしていくという部分では相当な手応えをつかんでいるかも知れないな,と思うだけに,ロースコアな展開に持ち込めるとともすれば,と思うところであります。


 実際に表現されるラグビーとしてはかなりの違いを感じさせるものの,バランスという側面で考えると双方ともに良好なバランスを維持して,トーナメントを駆け上がってきている。地上波での扱いがいささか小さ過ぎるために,何とも地味な印象を受けるトーナメントではありますが,決勝戦に相応しい,緊張感が支配するゲームになってくれるものと,期待しています。