スポーツなコーヴェット。

6,997ccもの排気量を持ちながら,しかもプッシュロッドながら。


 意外なほどに高回転型であることが,コーヴェットのスペックシート(シボレー・オフィシャル)から読み取れます。サルテに持ち込まれるC6−R,そのベース・モデルなのですから当然と言えば当然ですが,アメリカ車の典型的なイメージとはまったく別物だと考えていい,と思います。


 今回はフットボールから離れまして,webCGさんのニュース記事をもとに,シボレー・コーヴェットの話を書いていこう,と思います。



 2011モデルでは,高性能版であるZ06,その限定版として,カーボンリミテッドエディションが用意される,とのことであります。曽宮さんがまとめた記事を読んでいきますと,何ともスペシャルな設定になっております。部分的にはポルシェのスペシャル・モデルを凌駕するようなスペシャルさであります(お値段も,相当にスペシャルであります)。となると,ホントにポルシェと真正面から勝負できるようなクルマなのか,という疑問が出てくるか,と思います。そこで今回はデザイン,ではなくてメカからコーヴェットを見てみよう,と思います。


 意外かも知れませんが,コーヴェットはDOHCエンジンを搭載していた時期があります。C4モデルに設定されていた“ZR−1”です。このとき搭載されていたDOHCエンジンは,当時GMと関係があったロータスが開発を担当したのですが,やはり,「アメリカンなスポーツに欧州的なDOHCは相応しくない」ということだったのか,このDOHCエンジンはディスコンとなるのです。


 では,現行車種で何を搭載しているか,となると伝統的な“プッシュロッド”であります。


 となると,DOHCをディスコンにしてまで高性能なOHV?という疑問が出てくるか,と思いますが,その疑問を解くひとつの鍵は,シリンダーヘッドであります。DOHCは,シリンダーヘッドに2本のカムシャフトを組み込みます。そのカムシャフトを駆動するためのギアも取り付ける必要が出てきます。これらの機構を収めるわけですからヘッドはどうしても大きくなります。つまり,重量物がエンジン上部にあることになるわけです。恐らく,プッシュロッドなレーシング・エンジンというアイディアは,重心位置をできるだけ低くする,という意図があってのことだろう,と思うのです。実際,高性能版であるZ06に搭載されるLS7は,ロッカーカバーをカーボン・コンポジットに変更していますし,エンジン搭載位置をさらに低めるべくオイルパンを撤去,オイル循環をドライサンプへと変更しています。加えて,冒頭にも書きましたがLS7は6,997ccという排気量を持ちながら,高回転域まで使えるセットになっています。工業製品としての精度が,いわゆる量産車的な精度(製造公差)ではなくて,レーシング・マシンに近い製造公差に引き上げられている,ということではないか,と思うのです。OHVでありながら,レーシング・エンジンのようなアイディアが落とし込まれているわけです。


 古典的であること,が実際にはアドバンテージとして作用する。


 そんな側面は,シャシー・エンジニアリングでも言えることです。コーヴェットはいまでも,フレームとボディが分離できる構造を採用しています。ボディパネルをひとつひとつ取り外していくと,最終的にはフレームが見えてくる,そんな構造なのです。もちろん,フレームが重ければ意味がありませんから,フロアパネルなどの部分にコンポジット(カーボン・コンポジットでありましょうか。)を採用するなどして,強度と重量をバランスさせているようです。フレームとボディが別物,ということで考えるとロータスエリーゼであったりアストンマーティンヴァンキッシュなどと同じ構造を持っているのです。


 古典的な設計思想を守りながら,実際にはレーシング・マシン的な仕立て方を可能にしている。アメリカン,という部分で先入観を持ちがちですが,欧州の名だたるスポーツと真っ向勝負を挑める,そんなクルマでもあります。大排気量FRでリアルスポーツで。そんなクルマが気になる,というひとには,有力な選択肢にしてもらいたい,と思っています。