対川崎戦(10−33A)。

想定し得る,最悪の立ち上がりになってしまったけれど。


 相手に傾いた流れを,チームとして引き戻すことができた。守備ブロックが耐えるべき時間帯に,際どい形であるとしても守備応対を繰り返していけたことも当然に作用しているはずですし,ハーフタイムを挟んでの戦術的な交代が効果的であった,ということも作用しているはずです。
 今節奪取できた勝ち点は1,というのは確かなことだけれど,どのような形で1を奪取したか,を考えると,実質的な意味は1以上のものがあるように感じます。


 さて。いつも通りに1日遅れ,な川崎戦であります。


 まずは,ゲームの流れを決定付けかねなかった,立ち上がり直後の局面であります。
 左アウトサイドを縦に突破される,という形から守備ブロックを揺さぶられてしまうのですが,個人的にはダブル・アウトサイドの関係性で守備応対のポイントを外された,と感じます。ボールをホールドしていた伊藤選手,その内側のエリアでダイアゴナルにフリーランを仕掛ける黒津選手がいて,守備応対としてどちらにアプローチを仕掛けていくべきか,中途半端なポジショニングを取らされる時間帯をつくってしまったように感じるのです。数的不利に陥っているアウトサイド,このバランスを取り戻すという意識で守備ブロックが左へとスライドする。そのタイミングを狙い澄ますように,トラバースなクロスを繰り出し,そのクロスに反応して,伊藤選手がヘッダーへ,という形であります。


 前半,浦和に不足していた,と感じられる要素が,残念ながら相手の先制点奪取の局面にはあったな,と感じるところです。ダイアゴナルなフリーランを仕掛け,中途半端な守備応対に引き込んだ,黒津選手のような動きです。


 前半は,守備ブロックを安定させると同時に,ボール奪取から縦にシンプルに,という相手が描いたゲーム・プランから抜け出す,そのきっかけをつかもうとするだけでかなりの時間を掛けてしまった,という印象が強いのですが,そのときにボール・ホルダーをサポートする,そのためのフリーランが効果的に仕掛けられていなかった,という印象を持つわけです。
 浦和の攻撃陣は,「持って仕掛ける」タイプが多い。ひとりひとりのフットボーラーがしっかりと,局面を打開できるだけの突破力を持っている,と好意的に受け取ることもできるけれど,組織的な守備応対を意識している相手に対して,単純に突破を挑み,局面を打開するのは難しいように感じます。大ざっぱに言ってしまえば,相手守備ブロックがどちらに守備応対に入ればいいのか,躊躇をさせるようなフリーラン(局面によっては,純然たるムダ走りですが)を,短距離であるとしても仕掛けられている局面がいささか少なかった。ネガティブな意味でのポジション・フットボールになっている時間帯があった。相手のゲーム・プランがシンプルなものだっただけに,局面の動き方によっては前半の段階でゲームを決定付けられるような,そんな不安定さを抱えていたように感じます。


 ゲームの流れを変える,その最初のきっかけはハーフタイムでの戦術交代でしょう。セントラル・ミッドフィールドの構成を柏木選手と堀之内選手のコンビから,柏木選手と細貝選手のコンビへと変更する。ダッグアウトの意識からすれば,細貝選手の持っている機動性,縦への姿勢で中盤を含めた攻撃ユニット全体の機動性を高めることを意図したものと感じます。また,球際に厳しく仕掛けてくる相手に対して,引かないという姿勢をチームに再徹底するために,ボールに厳しくアプローチを仕掛けていく細貝選手をピッチに入れた,という形にも見えました。
 今節は,ダッグアウトからの戦術的なメッセージが受け取りやすかった,という印象を持ちます。ハーフタイム時の細貝選手の投入もそうですし,ヴィリー選手に代わってピッチに立ったセルヒオ選手にしてもわかりやすいメッセージを持っていたように感じます。前半の相手を観察する限り,守備ブロックはセンターを基準にして構築されていた。守備バランスを意識しながら,浦和が網に掛かるのを待ち構えているというように受け取れるものでもある。その網に中央から単純に仕掛けていくのではなく,アウトサイドで相手守備ブロックのバランスを崩していく,というワンステップを徹底することで局面打開を狙っていく。相手守備ブロックを崩すための重要な鍵としてアウトサイドを意識させる,そのためのメッセージとしてもセルヒオ選手の投入は,かなり明確なものだったように映るのです。


 ボール奪取の局面で,相手の後手を踏むような形が少なくなると同時に,ネガティブな意味でのポジション・フットボールな局面が少なくなる。加えて,相手守備ブロックを揺さぶるために,シンプルな中央突破だけを意識するのではなく,アウトサイドで攻撃の基点を構築,相手守備ブロックが守備バランスを崩すタイミングをつくることを意識するようになる。前半,なかなか引き戻せなかった流れを引き戻し,「勝ち点3」奪取を狙うまでにリズムを引き寄せた背後には,そんな要素が作用していたように感じるのです。


 タイトル奪取に直結するわけでもなく,ACLへの切符に直結するわけでもないゲーム。


 そんな見方をする向きもあるでしょうが,ACLへの切符に直結していない,というのはどうか,と思っています。
 確かにリーグ戦ではノー・チャンスなのは間違いない。けれど,もうひとつの切符がある。「小さなカップ」という切符が。天皇杯をどう戦っていくか,を考えるときに,リーグ戦最終盤はある意味,ローリング・スタート直前のタイミングであるように映るのです。鋭く加速を仕掛けていくためにも,しっかりとしたポジショニングを取りたいし,加速のタイミングを狙っていかないといけない。今節,特に後半表現した「戦う姿勢」は,2010シーズンの爪痕を天皇杯の舞台で残すために,最も重要な要素になってくれるのではないか,と感じています。