深谷対浦和戦(第90回高校ラグビー・埼玉県予選)。

あくまでも,用意されている切符は1枚だけ。


 勝者と敗者を厳然と分けるものが,この切符である,とも言えるでしょうか。ですが,勝者と敗者を分かつ,その距離は思うほどには離れていない,ように思えます。むしろ,「僅差」であると表現すべきなのかも知れません。ただ,その僅差を埋めるための時間は永遠のように感じられるかも知れません。特にいまは。
 悔しいと思うけれど。その悔しさの中に,僅差を埋めるヒントは隠されていると思います。ここ数季を思えば,最も重要なゲームで常に跳ね返されてきた高き壁,のように感じるかも知れません。けれど,乗り越えられない壁はない,ということを再び立ちはだかった彼らが示してもいます。こういう切磋琢磨が,必ず埼玉県代表に強さをもたらしてくれる,と思っています。


 フットボール,ではありますが,楕円球なフットボールの話など。


 花園への指定席切符を懸けた県予選,その決勝戦であります。今季は代表枠が2に拡大され,ひとつの代表枠は熊谷工を下した正智深谷が抑えています。今回は,もうひとつの代表枠を争った深谷と浦和に注目してみようと思います。


 まずは,花園への指定席切符を奪取した深谷でありますが。


 すでに厳しい要求を突き付けるべき(=花園での2回戦突破を現実的に意識してほしい)チームだと思っていますので,あえて厳しいことを書けば,どのようにして試合をクローズするのか,という部分でまだ「隙」があるな,と思います。ひとつひとつの局面で考えるならば,確かに相手をコントロールしているし,鋭く逆襲を仕掛ける,その端緒とすることができています。後半,試合を決定づけるトライへと結び付いたプレーは,局面ベースでの強さを示すものだろう,と思うのです。
 ただ,このトライが結果として,チームに隙を生じる要因にもなったように感じられます。相手は積極的に仕掛け,プレーを継続していかない限り切符への勝負権を失うことになります。ゲーム・クロックに残された時間も,決して多くはない。そのときに,相手の仕掛けを受ける形になってしまったな,と思うわけです。また,相手が主戦とする,ドライヴィング・モールを真正面から受ける形で失点を喫しています。コンバージョンを決めやすいエリアでトライを奪われているわけではないとしても,リズムを掌握される形でアディショナル・タイムを迎えてしまった,というのは課題になるでしょう。リズムを手放すような隙を見せれば,花園での本戦ではリズムを引き寄せるきっかけをつかむだけで相当な時間を費やすことになりかねません。指定席切符を奪取しなければ始まらない話,ではありますし,とりあえずの課題をクリアしたことは評価すべきか,と思いますが,彼らには「その先」を意識した戦いを見せてほしかった,という部分があります。


 対して,浦和であります。


 相手を追い込んだ,という感触はどこかに持ったか,と思います。さらに,自分たちが得意とする,モールからトライを奪取した,というのは手掛かりになる,とも。浦和が,「勝負権」を持っていることを実感させる時間帯でしたし,勝者と敗者を分ける距離,その距離は決して大きなものではない,と感じさせる戦いぶりだったと思います。
 ただ,ボールをしっかりと動かして攻撃を組み立てよう,という初期段階で相手の攻撃的な守備に引っかかる,というのはいささかもったいないな,と感じました。この試合で,大きな鍵だったかも,と思う,後半でのジャッカルであります。浦和から見れば,反撃へのきっかけをつかもう,とする局面だったはずです。最も大きな意味を持つ時間帯だったか,と思うのですが,その時間帯は相手にとっても大きな意味を持った。ゲーム・コントロールという部分で大きなフリーハンドを得るための。そのために,彼らは鋭くジャッカルを仕掛けてきた。このジャッカルに対して,いささか意識が薄かったように映る。ディテールに関わる部分,かも知れないけれど,こういう厳しいゲームだとディテールが往々にして試合を決定づける要素になり得ます。そのディテールで,浦和は深谷の後塵を拝してしまった,と感じられた局面でした。


 いつだったか,Cグラウンドで熊谷を相手に戦っていたときの浦和から感じられたことは,“インテリジェンス”でした。今回はちょっと違う要素を書いてみよう,と思います。思うに,僅差を埋めるヒントは「吹っ切れること」かな,と。どこか,立ちはだかってきた壁である深谷に対して,どのようにして崩そうか,どのように戦えば崩れるのか,などと考えながらフィールドに入ってしまったように感じます。意識するな,というのが無理な話ですが,意識が自分たちのラグビーを抑え込む要因になっていたように感じるし,結果として深谷のプランに乗ることになってはいなかったかな,と。
 追い込まれるだけ追い込まれてから,浦和は「らしさ」を表現できるようになった。あの時間帯の浦和が,本来の姿だとするならば,追い込まれたことでやっとリミッターが外れたようにも見えるのです。意識して,リミッターを外せるようにするにはどうするか。そろそろ,技術的な要素だけではなくて,技術的な要素を100%に近づけるための「意識」が問われる時期になっているのかな,と思いますし,僅差を埋めるのは意識かも,と思うところです。


 さて。代表校となったのは正智深谷深谷。結果として,深谷勢が独占することになりましたが,第2地区のトーナメントはかなり熾烈なものだった,と感じます。県北勢,特に深谷勢が圧倒的な優位性を持っていた時期から,「相対的な」優位性を持つ時期へと移行している。そして,浦和は「勝負権」を持ちつつあることを見せてくれた。県北に住む立場からすれば心中複雑,ではあるのですが,ラグビー・フリークとしては楽しみな状態になってきたな,と思うところです。