現代的なストラトス。

ある段階までは,全面的なサポートを受けてはいたけれど。


 やはり,マーケティング戦略としては「かけ離れ過ぎていた」のかも知れません。WRCで圧倒的な存在感を見せ付けてはいたけれど,フィアットというブランド,その価値をラリー活動を通じて高める,という効果を生むには,あまりに“パーパス・ビルド”だったと言うべきでしょう。実際にWRCへと投入されるラリー・マシンは純然たるレーシング・マシンであるとしても,市販車との関係性を直接感じさせるクルマでなければ,フィアットというブランドを意識させるのは難しい。そんな判断が働いたのかも知れません。フィアットは131アバルト・ラリーをファクトリー体制でWRCに持ち込む,という判断をします。戦闘力,という側面で主役から降りたのではなくて,違う側面で主役から降ろされた。


 そんなクルマではありますが,やはり凄味のある設計です。であれば,現代においても魅力的に感じるひとは多く,さらには現代的な形で復刻してしまいたい,と思われたひともおられるようです。そして,実際に形になった,というレスポンスさんのニュース記事をもとに,フットボールから離れた話を書いていこう,と思います。


 まずは,大きな違いから書いていきますと,オリジナル・ストラトスのデザインを担当したのはベルトーネですが,今回の復刻版ストラトスを担当したのはピニンファリーナ,であります。レスポンスさんが配信している写真を見てみますに,オリジナルが持っているデザイン・キューを尊重しながら,現代的なディテールをしっかりと表現している,なかなかの仕事ではないかな,と思います。
 逆にオリジナルと同じ手法を採用しているな,と思うのはパワートレインであります。オリジナルでは,ディーノに搭載されていたV型6気筒を搭載していたのですが,今回はシャシーを含めてフェラーリF430をベースに仕立てている,とのことです。となると,オリジナルで特徴的なショート・ホイールベースが維持されているかな,と思うところなのですが,写真を見る限りではかなりホイールベースを詰めているように受け取れます。直進安定性よりも回頭性を意識してホイールベースをセットした,オリジナルの設計思想をしっかりと受け継いでいるようであります。


 それにしても。オリジナルの完成度に驚きますね。モダン・デザインというのは時に,流行から外れていくと急速に古さを感じさせるように思うのですが,ストラトスは不思議と古さを感じさせない。もともとミニマリズム,と言うか,WRC制覇という目的のために必要な要素を盛り込む(不必要な要素を徹底して削り取る),という開発手法が作用しているものと思いますが,本当によくできた道具を見ているような感じです。クルマの原点とはこれだな,と思えるような。
 であれば,個人の要望に応える形での復刻が今回の話ではあるのですが,ぜひともランチアとして「本格復刻」に動き出してもらいたいな,と思えるクルマです。