対C大阪戦(10−26)。

距離を詰めるか,引き離されるか。


 “Six Pointer”という表現もできますが,大ざっぱに言ってしまえば,ACLへの切符をリーグ戦で奪取できるかどうか,そのための重要なゲームである,と。ゲームそのものを見るならば,課題は残るとは思うけれど,まずはスタンディング上位との対戦において「勝ち点3」を奪取,ACLへの切符奪取に向けた足掛かりを確保したことが,大きな収穫だろう,と思います。


 さて。いつものように,なセレッソ大阪戦であります。


 いわゆるパッケージな話からはじめれば,ともに4−2−3−1であります。攻撃ユニットをどのように機能させるか,であったり,ピッチサイズを最大限に活用するために,できるだけワイドなパッケージを採用したいなど,恐らく指揮官の意識は相似形だろう,と感じます。この静的なパッケージから考えるならば,「ミラーゲーム」,主導権争いがゲームの中核に,となるわけですが,ミラーであるがために,ディテールがゲームの主導権を掌握するにあたって重要な要素になってくる,とも感じられます。そのディテール,相手よりも上回ってゲームを立ち上がることができたかな,と感じます。
 端的に言うならば,ボール・ホルダーへのアプローチを高い位置から仕掛けていく,という姿勢がチームでしっかりと表現できたことが,立ち上がりの時間帯に先制点を奪取できた,大きな鍵ではなかったかな,と感じます。ボール奪取でリズムを作り出したことで,攻撃面の「らしさ」につながっていく,という循環ができていたように思うわけです。先制点奪取につながる局面では,パス・ワークと「個」の突破がしっかりとバランスしていた,浦和が狙うフットボールを表現できた局面,という印象を持ちます。リズミカルにパスを展開させているのは確かだけれど,そのパスを繰り出す,収めるフットボーラーが相手守備ブロックの隙を突くような,短距離なフリーランを仕掛けられている。そのために,フィニッシャーがボールをゴールマウスに,という最終的な局面で,相手守備ブロックを揺さぶった結果としてコースを作ることができる。浦和なフットボールで先制点を奪えたのが,14分の局面だったかな,と思うところです。
 そして,追加点を奪取した局面も,「らしさ」が表現された,もうちょっと正確に言うならば,もともと持っている「らしさ」を取り戻した局面だったかな,と感じます。原口元気,というフットボーラーに対して持つイメージは,やはり今節のようにアウトサイドからボックス方向へと切り込んでいく動きであり,躊躇なく振り抜く豪快なシュート・モーションです。チームが機能するために,という意識も重要なものだし,守備面においてはもっとできるはず,という要素も確かにあるけれど,反面で「らしさ」を潰してしまっている側面も少なからずあったかな,と感じます。アウトサイドから切り込んでくる,というよりも,シンプルにトラバースを。でも,その先でボールを呼び込めているわけではない。自分を活かすことでチームを活かす,というよりは,自分を潰して,になってしまっていた時期があったかな,と。そんな時期を突き抜けていくな,という手応えを感じるような,鮮やかな追加点奪取の局面でありました。


 「らしさ」は,確かに表現されています。いますが,今節にあっては残念ながら,「時間帯限定」にとどまってしまったし,むしろ相手が動かすゲームに乗ってしまった時間帯が多い,ということになるか,と思います。であれば,クリアすべき課題も見えた試合,ということになろうか,と思います。


 まずは,前半段階で見えてきた課題でありますが。


 アタッキング・ミッドフィールドのコンビネーションを,達也選手の負傷によって変更せざるを得なくなったことで,チーム・バランス,ボール奪取に対して微妙な影響を及ぼしてしまった,と感じるところです。高崎選手が入ることで,チームとしてのボールの動き方が,シンプルな方向に傾きすぎてしまったかな,と思うわけです。
 達也選手から高崎選手への交代によって,同じ4−2−3−1を維持しているとしても,前線でのステーションが1から2になったような形でボールを動かす時間帯が増えてきた。ただ,駒場での天皇杯3回戦のように,ステーションとしてボールを保持,パスを引き出すフットボーラーの動き出しを促す,という形はなかなか表現しきれなかったところがありますし,むしろ相手守備ブロックに対してボール奪取のポイントを提供するような形になってしまったところがあるな,と思うのです。
 今節のMDP(小齋さんのコラムであります。)では,高崎選手自身は「高さ」を武器とするプレー・スタイルよりも,むしろステーションからボールを引き出して縦に,というプレー・スタイルを好んでいる,とのこと。であるならば,大きな期待を込めて実戦でのインテリジェンスを求めたいな,と思います。ちょっとパッケージな話,になりますが,いわゆる2トップとして動くのではなくて,縦のギャップを持った2トップ,あるいは1トップとの距離感を縮めているアタッキング,というように,トップとの距離感,コンビネーションを意識してもいいかな,と思うのです。また,その距離感,自分が持つ「強み」をチームに理解させていくことも重要な要素かな,と感じます。自分をどう活かすのか,ちょっと表現を変えれば,使われ方を「使う側」に明確にイメージしてもらう,そのための動き方を積極的に表現できるようになると,チームの厚みが増していくように感じるところです。


 また,「高さ」を意識するようになったからか,「縦」にシンプルなゲームへと傾いてしまった,というのも今節の課題になるか,と思います。柏木選手が試合後にコメントしているように(J's GOAL),最後方からのビルドアップが今節は不足していたな,と感じるところです。前線,あるは攻撃ユニットの制空権,という側面を思えば,単純に縦に,という選択を取るよりも,守備ブロックへボールを預けていく,という局面があってもいい。セントラル・ミッドフィールド,ときにゴーリーを含めて最終ラインがボールを動かし,相手守備ブロックがボール奪取に動き出すタイミングを狙ってボールを縦に動かす,という「緩」が今節は確かに少なかった。大宮とのアウェイ・マッチ(とは言いながら,実際には中野田だったのですが。)では,相手の焦りを誘うようなボールの動かし方を表現できていた。焦れて,相手がブロックのバランスを崩してボールを奪いに出てくる,そのタイミングを狙うようなパス・ワークが,天皇杯でのゲームを含めて,「高さ」のポイントが見えてしまうことで抑え込まれる傾向がある。「高さ」があるとしても,チームとしてその高さを「強さ」には転換しきれているわけではない。かつての浦和ならば,確かにハイ・ボールをコントロールできる起点があったけれど,いまの浦和は起点,とイメージできるフットボーラーがいるとは言い切れない。


 「縦」にシンプルに攻撃を組み立てよう,という意識が(予定外の交代が要因であるとしても)明確になってしまったことで,かえって相手の攻撃にリズムを与えてしまった,ゲームを動かすという部分で後手に回る時間帯が増えてしまった,という部分は,要修正な課題ではないか,と感じます。


 と,少なからず課題は見えているゲームではありますが。


 冒頭にも書きましたが,ACLへの切符を争うための「距離」を詰められるか,それとも引き離されてしまうか,という分岐点なゲームで「勝ち点3」を奪取できたこと,さらに距離を詰めるための足掛かりを得たことは間違いなく,大きな収穫であります。ただ,上位との間合いを詰めたとは言え,並びかけるまでには至っていません。幸い,スタンディング上位に勝負を仕掛ける,“Six Pointer”なゲームがまだ残されています。今節つかんだ足掛かりを本当の意味で活かすために,リーグ戦終盤において加速態勢を崩すわけにはいかない。今節での課題をクリアすることで,その加速態勢を固めていってほしい,と感じます。