ファースト・プロトタイプなアルゼンチン戦。

意外にも,プレゼンテーション段階での枠組みに近かったですね。


 であれば,初期段階での意識付けがどのように機能しているのか,比較的読みやすかった試合,ということになるような印象であります。と,国際試合でもいつものように,なアルゼンチン戦であります。フレンドリーであるとか,対戦相手のコンディションが,であるとか,いろいろとエクスキューズを付けられるかも知れない試合でありますが,かつてはそういうエクスキューズがあってなお,結果を引き寄せられなかったのも確かなこと,です。
 対戦相手に対する敬意は持ちつつも,決して気圧されはしない。勝負事であれば,「勝ちに行く」のは当然のこと。そんな姿が,しっかりとチームに共有されるようになったのは,結果と並ぶ収穫でありましょう。


 では,パッケージな話から書きはじめてみますに。


 原さんが暫定的に指揮を執ったときのパッケージを踏襲,4−2−3−1を採用してきました。このパッケージに海外組,本戦を経験しているフットボーラーを組み込むことで,どれだけチームとして表現できるパフォーマンスに変化が出てくるか,見ようとしたのかな,と感じるところです。個人的には,原さんのチームだけではなくて,岡田さんが指揮していた,本戦段階のチームも比較の対象として含まれていたかな,と思うところです。たとえば,セントラルは長谷部選手と遠藤選手,本戦段階でアンカーを務めた阿部選手を外してバランスをチェックする,という見方もできますし,攻撃ユニットでも新たなコンビネーションを持ち込むことでバランスの変化を見る,という意図を感じられたように思うのです。


 反面で,「意識付け」としては確かに変化が感じられました。


 ごく大ざっぱな言い方をすれば,攻撃面でのシンプルさをかなり強く意識付けしてきたように見えるのです。ボールを積極的に動かすことで相手守備ブロックを揺さぶっていく,手数を掛けて攻撃を組み立てるというアプローチではなくて,むしろ手数を抑え込みながら最短距離でフィニッシュへと持ち込む,というアプローチを意識付けているように受け取れました。であれば,原さんが意識していたと思われる,ポゼッション・ベースなフットボールとはちょっと路線が違ってきているようにも映るわけですが,「対フットボール・ネイション仕様」として,しっかりと意識しておかなければならないフットボールであることも,また確かであるように思うのです。
 また,守備応対面ではちょっとだけ,欧州な雰囲気が感じられるようになってきているな,と思います。もちろん,まだまだ狙うべきところとは距離がある(押し込まれると,守備ブロックが潰れる時間帯がある)わけですが,縦方向にコンパクトな守備ブロックを構成して,その上下動によって相手を抑え込む,という方向性を志向しはじめたな,と。単純に引いて相手を抑え込む(と言うか,はね返すというか),攻撃面ではワンチャンス,という方向性ではなくて,明確にボール奪取からどのようにして逆襲を仕掛けるか,という部分を織り込んだ守備応対にシフトしつつある,と思うわけです。


 さてさて。フットボール・ネイションを相手に結果を叩き出してくれたわけで。


 ザッケローニさんが,短期間でチームに落とし込んだ意識,縦への意識が奏功した形であります。ありますが,日本が意識すべきフットボール,と考えると,「縦」という武器はひとつのオプションではあると思いますが,もうひとつの側面もやはり,重要性を失っていないように思うのです。


 引いて構えてくる相手をどう崩すのか,という側面を意識しておくことも重要になるはずです。アジアでの戦いは恐らく,引いて構えてワンチャンスのカウンターを狙う,という相手と対峙することが多くなりましょうし,ワールドカップ本戦にあっても,フットボール・ネイションが「引いて構えて」を戦術的に選んでくることが否定できない。そのときに,「縦」を生かすポゼッション,という側面が重要になってくるはずですし,ザッケローニさんがどのように,縦とポゼッションをバランスさせてくるのか。ちょっと気の早い話になっているかも知れませんが,早い段階から高いところを求めたくなるような,そんなプロトタイプだな,と思うのです。