One-77.

獰猛さを増した,ヴァンキッシュとでも表現しましょうか。


 いままでのアストンと比較すると,曲線を積極的に使う抑揚が強いデザインに変化しています。いわゆる「華流」(中国市場を強く意識したデザイン・テイスト),という方向性を感じるところもあって,個人的には評価を保留してしまいたい部分もあります。ただ同時に,「アクの強さ」(ほかのどのメイクスにも似ていない,アストンらしさ)はかつてのアストン的であるのかも知れない,と感じるところもあります。



 今回はwebCGさんのニュース記事をもとに,限定生産のアストン・マーティン,“One-77”のことを書いていこうと思います。


 いつものように,デザイン面から書いていきますと。


 フロント・セクションはDBSやDB9よりも,ヴァンキッシュの流れを汲んでいるな,という印象です。スマートさを意識させるのではなくて,むしろ粗削りな迫力を意識させるような方向性,であります。ただし,ヴァンキッシュは「面」で表現していたのに対して,このクルマはエッジ(ライト・ハウジング下部に切られたエア・インレット)と曲線を組み合わせながら迫力を表現しているように感じられます。
 視点をフロントからサイドへと移すと,エッジと曲線の組み合わせはより明確になっていくような印象です。アストンであることを主張するフロント・グリルやエア・インレットから導かれた空気を抜く,エア・アウトレットやサイド・ウィンドウの造形でエッジを意識させ,フロント・フェンダーからリア・フェンダーにかけてのデザイン処理で曲線を強調する,と。


 対して,インテリアはヴァンキッシュからの“モダン・アストン”,その正常進化版という印象が強い。さすがにシートなどに「限定版」のデザインが入ってきてはいますが,全体的にはほかのアストンから乗り換えたとしても,それほど強い違和感を持つことはないか,と思います。
 やはり個人的には,エクステリア・デザインに「華流」の影響が強くなってきていることが気になります。ポスト・モダンなデザイン,という評価もできましょうが,いささかデコラティブな印象が強い。個人的には,抑揚を抑えつつも迫力を持ったデザインが見たかった,というところがあります。


 メカニズム方向では,やはり7300cc(!)のV12でありましょう。


 エコな時代に,なんともインパクト勝負な排気量であります。ありますが,アストンはスポーツカーであると同時に,やはり「高級車」としての位置付けもあります。技術的なチャレンジができる,とは言うけれど,その反面で「社会的な縛り」が意外に強いカテゴリでもある,と言えましょう。高級車であるからには排気量に圧倒的な余裕があること,などの意識は,確かに想定顧客層にあって,抜きがたく存在しているかな,と思ったりします。現代的な要請,という方向から見ると違和感が,となりますが,高級車としての文法を意識してこのクルマを再び見てみると,なるほど高級車としての定石通りの部分もあるな,と思うのです。


 いわゆるクルマ好きとして,どういうクルマだろうか,という興味はありますし,できることならばステアリングを,という意識がないわけではない。けれども,個人的にアストンを,というのであれば,いつかも書いたことではあるのですが,アストンの持っているスポーツ性を引き出してやりたいと思いますし,そのためには社会的な縛りから外れてくる(かも知れない)中古で,と思うのです。