対FC東京戦(10−22A)。

幸運が試合を左右した,という見方もあろうけれど。


 幸運を味方に付けるための論理(戦術)構築,という部分でちょっとだけ,アドバンテージがあったかも知れない。加えて言うならば,チームがリアリズムを表現しつつある,という部分が収穫かも知れない。


 いつも通りに1日遅れ,なFC東京戦であります。


 今回は,ちょっと相手のゲーム・プランをイメージするところから話をはじめてみよう,と思います。
 今節,相手が持ち出してきた戦術パッケージは,4−1−4−1(といいますか,4−1−2−3と言いますか。)であります。このパッケージから戦術的なメッセージを読み取るならば,アウトサイドを引っ張り出して,裏のスペースを突くこと,でありましょう。相手(つまりは,浦和)はポゼッションを基盤としながら攻撃を構築してはいるものの,ネガティブな意味でのポジション・フットボールになる時間帯を消しきれてはいない。その時間帯で,攻勢を強めようとしてバランスを崩すタイミングが出てくる。そのタイミングを狙う,という意識ではなかったかな,と。
 前半は,この図式に嵌りかけた時間帯もあったか,と感じます。ただ,どちらかと言えば,攻撃に枚数をかけたタイミングでボール・コントロールを「奪われる」と言うよりも,攻撃リズムを強めよう,というタイミングでのパス交換,攻撃リズムを引き上げるスイッチとなるパスを収めた直後にコントロールを「失う」,という形から相手の意識する攻撃を,という形であったような印象です。さらには,戦術的なアイディアは理解できるものの,そのアイディアを実際の形に,という段階で4−1−4−1を使いこなせているかな,という部分が感じられました。実際,戦術交代をポイントに,4−1−4−1から4−4−2気味なパッケージへとシフトしているようにも受け取れた。まだ,必ずしも使いこなせていないパッケージを引っ張り出していたのではないか,という印象を受けるわけです。


 対して。浦和は基本的な戦術パッケージを変更しているわけではありません。チームとしての構成は移籍や負傷などによって変化を余儀なくされているけれど,「やるべきこと」が変わっているわけではないし,変えてもいない。そんな今節にあっては,「スイッチ」なパスが明確に感じられる時間帯が出てきている,という印象を受けてもいます。


 今節のセントラル・ミッドフィールドは,柏木選手と細貝選手で構成されています。戦術的な熟成度,という部分で考えるならば,まだまだ粗削りな部分が多いか,とは思いますが,チームに機動性を持ち込み,相手守備ブロックに対してチャレンジする縦パスを繰り出していく,という意図について見るならば,かなり明確さを増してきたな,と感じるわけです。
 攻撃ユニット(アタッキング・ミッドフィールドにトップ)がステーションとしては不安定性を見せてしまう時間帯がある。コントロールを維持しながら,さらにボールを預ける(リターン・パスを繰り出したり,オフ・ザ・ボールでの動きを引き出す)という形がなかなか成立しない。オフ・ザ・ボールでボールを呼び込むような動きが求められるタイミングにあって,動き出しのタイミング,そのイメージがズレてしまうために,流動性を持った中盤,という形をつくっていながら,ボールを受ける,呼び込むタイミングではネガティブな意味でのポジション・フットボールになってしまう。相手がつけ込もうとしていただろう隙,そんな隙をつくってしまったのも確かですが,セントラルのコンビネーションが変更を受けたことで,「縦」という要素が見えるようになってきた。柏木選手が,試合後のコメントでも触れていましたが,縦にチャレンジをしていくことが,これまでの浦和ではなかなか表現しきれていなかった。また,彼が指摘するように,パスを繰り出して,再びボールを受けるタイミングが違ってくると,表現できるフットボールが広がっていく。確かにそんな印象を受けるゲームだったか,と思います。


 加えて書くならば,最小得点差での「勝ち点3」奪取ではありましたが,その最小得点差を維持することができたこと,が収穫ではなかろうか,と感じます。
 今節までの戦い方で,「勝ち点3」を確保できない,あるいは「勝ち点1」を維持することのできない試合が少なからずあったように感じています。指揮官が,試合後のコメントで残している通りです。明確に「受けている」という印象まではないとしても,リズムを掌握していたはずが,相手にそのリズムを引き寄せられ,相手のリズムでゲームを動かさざるを得ない時間帯が,ゲーム終盤に生じてしまう。結果として,掌中に収めかけていたはずの勝ち点を,取りこぼすことになる。「逃げ切る」と言いますか,自分たちの形で試合をクローズする,と言いますか。そんな意味でのリアリズムが足りないのではないか,と感じた時期があったのも確かですが,今節は自分たちの形で試合をクローズする,という課題を,ある程度はクリアできたのではないか,と感じます。


 今節は残念ながら,「勝ち点3」以上の意味を持つ試合ではありませんでした。それだけ,相手を含めて想定外のポジションにいる,とも言えるわけですが,そのポジションを引き上げていくためには,可能な限り「勝ち点3」を積み上げていく必要がある,とも言えるはずです。勝ち点を積み上げていくためのリアリズムが,少なくとも感じ取りにくかった,というのが変わりはじめたとすれば,そのきっかけは鹿島戦と見るべきかも知れませんし,ひとつの「手応え」として感じられたのが,今節という言い方でもいいかな,と。
 スタンディング上位との距離を詰める,という意味では,今節は基礎,と言うべきかも知れません。基礎を構築して,ひとつずつ構造物を積み重ねていく。かつてのクラブ・スローガンを借りれば,“STRIKE BACK”をはじめる一歩として,まだまだ要求すべき要素が多くあるとしても,悪くない試合だったのではないか,と感じます。