Netherlands v. Spain (FINAL).

ファン・マルバイクのアプローチが,100%否定されることもなかろう,とは思うけれど。


 当然,違った解法もあったのではないかな,と思うところです。


 不安定性を徹底して排除する,という考え方も,確かにカップ戦においては重要な要素です。理想を徹底するのも一策ではあるけれど,どこかに現実味を意識しておかないと足下をすくわれる可能性を孕む。その可能性をファン・マルバイクは意識していたのでしょうし,現実的にトロフィーを引き寄せようと考えた,その考え方を理解もできます。
 個人的には,現実的な方向に軸足を「置き過ぎた」のかな,と思うところがあります。流動性であったり,循環性を武器としてきていたはずなのだけれど,それらの武器のネガティブを意識し過ぎたのではなかろうか,と。ポジションを流動化させることで,攻撃面での強みを表現する,という方向性ではなくて,できるだけポジションを崩すことなく,守備的な安定性から入ろう,という意識を徹底させる。浦和を追い掛けてきた立場からすれば,同じダッチマンで守備面を意識して,ということで思い浮かべる人物がおりますが,あの人物の基本発想も,前線でのタレントを生かすために守備面を,というものだったとか。なるほど同じような思考過程かも,と思う反面で,バランスを守備面に傾け過ぎたためか,本来の強みまでもが落ちてしまってはいなかったかな,と思うのです。


 遅筆堂の面目躍如な状態でありますが,ちょっとだけ決勝戦について書いておこう,と思います。時系列的にどう,というのは時期的にどうなんだろう,と思いますので,ちょっとゲーム・プラン的な部分から見てみよう,と思っています。


 さて。オランダは安定していた代わりに,「らしくない」印象を与えてきていたかな,と思います。勝負,という方向性からフットボールを組み立てるのではなくて,どのようなフットボールを表現するのか,という方向からフットボールを組み立ててきたチーム,という印象を持っていただけに,このトーナメントでのチームには「違和感」が付きまとっていました。


 ファースト・ラウンドの段階では,チームとしてのコンディションが100%に上がってこなかったからかも,などと思っていましたが,決勝から逆算して見てみると,どうも当初から攻撃面でのらしさよりも,守備面での安定性を意識した方向性へとシフトしていたようです。そのシフトを,さらに徹底させたのが決勝戦だったのかな,と。真正面からスペインとフットボールを,という方向性ではなくて,あえてフットボールで勝負しないことを選んだようにも感じられます。正直なことを書けば,「らしくない」戦い方を選んだな,と思いますし,いささかもったいない決勝戦であったな,と思うところです。


 対して,トロフィーを掲げることになるスペインでありますが。


 当然,あとのないゲームですから,現実的な対応に意識を払わない,などということはあり得ないはずです。初戴冠を射程に収めているわけですから,「負けたくない」という意識はオランダと同じ,でありましょう。ただ,デルボスケのバランス感覚は,(あくまでも相対的に,でしょうけども)もともとのフットボールを軸足とするものだったように思います。バランス感覚が重要であることを認識しつつも,必要以上に強みを削ってまで安定性を狙いには行かない,というような。ここで,相手との関係において,ひとつの鍵ができたのかな,と思ったりします。


 それでも,90分のフルタイムを経過した時点ではスコアレス。あと,30分を乗り切れば,ゲームの流れとは無関係のペナルティ・シュートアウトによって雌雄を決することも可能となる。となれば,ファン・マルバイクのプランも悪くない,ということになるのでしょうが,実際には延長戦の段階でゴール・ネットが揺れることになります。ファン・マルバイクのプランを崩す方向で。


 さてさて。フランス大会あたりから,優勝候補でありましょう,と思ってきた(時に公言もしてきた)チームが,やっとトロフィーに手が届いたか,と思っております。まあ,何と言いますか,勝負弱かったと言いますか,チームがチームとして機能しなかったと言いますか。予選でのらしさが,本戦でなかなか表現しきれない。今大会にあっても,ファースト・ラウンド初戦で予想外な立ち上がりを示していましたし,これまでのパターンを見事に踏襲してしまう可能性もゼロではないな,と思ったところも確かにあります。破壊力,という部分で見るならば,南米勢とは違ってそれほど強い印象を残すものではありませんでした。でありますが,チームがしっかりとした形を維持したままにトーナメントを終われた,ということが大きいように感じます。
 何かが突出して,という印象を与えるチームが,セカンド・ラウンドを勝ち抜いてきたわけではない,と思いますが,その代わりにチームとしての姿が明確に見えるチーム,個性を潰すのではなく,個性をしっかりとひとつの方向性へと持っていくことのできたチームが,トロフィーを争うゲームへと歩を進めてきたのかな,と。そして,最後の鍵は,「らしさ」をどこまで残せたか,ではなかったかな,と感じています。