フットボールか、アンチ・フットボールか。

シンプルにして,結構普遍的な命題であるように思います。


 もちろん,重要な視座であろう,と思っています。いますが,タイミングによって議論の重要性,と言いますか,重みが違ってくるように思うのです。


 たとえば,この議論を積極的にすべきなのは,チーム・ビルディングをしている段階でのことだろう,と思うわけです。チーム・ビルディングの初期〜中期段階であるにもかかわらず,結果重視のアプローチしかしていない,しかも充実した戦力を持ちながら結果から逆算したようなフットボールだけを狙っているとすれば,“アンチ・フットボール”という批判も当然に必要な話でしょう。戦力から考えて,もっと違う,魅力的な道筋があるはずだ,と。


 “フットボリスタ”誌の巻頭に掲載されている,木村さんのコラム。そのコラムで目にした言葉でもあるのですが,今回は,フットボール,そしてアンチ・フットボールという視点から代表チームの戦い方を,ちょっと長めの時間軸で振り返ってみよう,と思います。


 イビツァさんからチームを引き継いだタイミングでは,明確に“フットボール”方向のチーム・ビルディングを志向していたように感じます。大西さんが持ち出した言葉である「接近・展開・連続」を援用して,自分たちから仕掛けていくフットボールを狙った。
 このテーゼは結構堅持されていたように思うのですが,フットボール・ネイションズに対しての武器たり得るのか,という疑問が明確なものとなったのが国際親善。セルビア戦であり,韓国戦ではなかったか,と思うのです。主力が100%フィットから遠い位置にとどまっていた,という留保はあるにしても,韓国に対して自分たちが狙っているようなフットボールで先手を打たれ,フットボールをさせてもらえなかった。中盤高めの位置での守備,プレッシングが機能しにくい状態だから,最終ラインでのカバーリングも機能しにくくなる。ボールをいい形で奪えないから,攻撃にしてもいい形で仕掛けられなくなる。フットボールできないで90分を過ごしてしまう可能性を露呈した,と言うべきでしょう。


 ある意味,フットボール・スタイルを本戦仕様へと書き換える必要性がハッキリと提示されてしまった,と言うべきかも知れません。


 戦術パッケージ面で,現実方向へと軸足を置き換えたのは,同じく国際親善であるイングランド戦であり,コートジボワール戦でありましょう。確かに結果から見れば,セルビア戦や韓国戦と変わるところはなかったのだけれど,少なくとも「戦える」というちょっとした感覚は得られた。また,もともと岡田さんが得意とする戦い方に戻ってきた,という感覚を持ちもした。
 アンチ・フットボール,という要素を基盤にしようとしたのだとすれば,このタイミングだろうな,と思うわけです。そして,この決断は一定の結果を引き出すに至った。確かに,R16で止まったことで,この戦い方にも限界があったことを示してはいるけれど,ではそれまでの「接近・展開・連続」を基盤とした状態で同じ結果を引き出せたのか,というパラレル・ワールドを考えるならば,決してポジティブな評価にはならないだろう,とも思うのです。


 要は,厳しい勝負の舞台で,守備的な安定性が落ちてしまうと,勝負権は得られない,ということになろうかと思うのです。


 フットボールという競技には“アーティスティック・インプレッション”という評価項目はどこにもありません。結果を導くのは,ファイナル・スコアだけなのです。そして,ファースト・ラウンドではラウンドロビンが採用されてはいるものの,基本的には短期決戦であることに間違いはなく,セカンド・ラウンドに駒を進めるとなれば,結果を引き出すことでしか上に上がっていくことはできません。確固たるスタイルを押し出しながら上がっていければ,あるいは加速していくことができるならば,それは確かに理想的な形ではあるけれど,現実を打ち破るだけのパワーを伴っていなければ,その理想を徹底するのは難しくもある。なにより,「本戦」ではどう見ても,チャレンジャーでしかありません。そして,上に行かなければ見えない視界というのも確かにあるはずです。
 守備的な方向性だけを取り出して,アンチ・フットボールと言い切ってしまうことは容易いし,今回のスタイルを前後分断型と見ることは確かにできる。だからと言って,理想論に思い切って振ってしまえばいい,というものでもないでしょう。どこまで,「接近・展開・連続」のエッセンスを落とし込めたのか,あるいはそれらのエッセンスを攻撃的に仕掛けるときの要素にし得たのか,という視点が重要かな,と思うのです。


 イングランド戦を転換点として導入した戦術パッケージや,守備のイメージは,ひとつの「形」を提供するものだろう,と思います。であるならば,これから考えるべきはこの基盤をどのようにして攻撃的な鋭さに結び付けていくか,ということになるでしょう。当然,「接近・展開・連続」という要素が守備的な形に対して合っていたか,という側面も確認していくことになるでしょう。そして,どのような要素を上積みしていくべきなのか,も。
 どのような分析がJFAからリリースされるか。楽しみでもあったりします。