ADVANCE(Denmark v. Japan - Group E・#3).

「勝ち点6」,と。


 「勝負事」というのは,これだから面白い,と思うのであります。


 個々の能力はもちろん大事。でも,それだけではない。戦術的な部分での徹底度も大事だけれど,戦術だけが試合を決定付けてくれるわけでもない。個々の能力を引き出すためのフィットネスも重要だし,パフォーマンスを引き出すためのメンタルも。そして,チームを構成するすべてのひとが,同じ方向を向けること。およそ考えられるすべての要素が,あるレベルで(ってここがもっとも難しいと思うのだけれど。)バランスしてくれないと,なかなか望む結果を引き出すのは難しい。


 少なくとも,いまのチームは「あるレベル」を探り当てつつあるのだろうな,と感じます。


 ワールドカップのリーグ戦は短期戦ですし,セカンド・ラウンドは純然たるトーナメントです。どれだけしっかりと加速しながらセカンド・ラウンドに入っていけるか,が問われるかな,と思うのですが,このチームはいい形で加速してきているな,と。
 グループリーグ最終戦である,デンマーク戦であります。


 立ち上がり,相手が出てくるのはある意味,当然でありましょう。「勝ち点3」がセカンド・ラウンドへの条件となっているのだから,主導権を奪って試合を進めたい。ここまでの戦い方とは違うとしても,仕掛けていく必要があった,と見るべきでありましょう。この時間帯に「受け過ぎなかったこと」,がひとつの要素だったかな,と感じます。
 まともに相手の攻撃を受け止めるのではなくて,逆襲を仕掛けていくタイミングを狙いながら,ブロックの距離感を崩すことなく守備応対を,という意識が安定していたから,リズムを引き寄せるチャンスを引き寄せられたかな,と思うわけです。


 守備応対から,カウンターの好機を狙う。これまでの2ゲームでも表現されてきた要素ですし,冷静に振り返ってみれば,守備応対の基本アイディアを持ち込んだのはインターナショナル・フレンドリーであるイングランド戦であります。熟成期間を思えば,決して長くない時間だったと思いますが,実戦という負荷を掛け続けたことでかなりのところにまで煮詰められている,という印象であります。
 そして,セットピースから先制点を奪取する。大きな武器,と考えられていたわけですが,グループリーグではセットピースからの得点奪取,という形がなかった。“ジャブラニ”の特性を考えても,セットピースが相当な意味を持つだろうことが見えてはいましたが,グループリーグ最終戦,というタイミングでセットピースが重要な鍵となってくれた。2得点,というアドバンテージを持ってハーフタイムへと入っていけた,そのきっかけがもともと武器としていたはずのセットピース,ということもこの試合を振り返っての要素でしょう。


 ハーフタイムを挟んでも,攻撃的に仕掛けてくる相手に対して,しっかりとした守備応対から逆襲を仕掛けていく,という基本的な図式には大きな違いはなかったかな,と感じます。


 ここで,守備バランスを考えてみますに,ボール・ホルダーへとアプローチを仕掛けていくブロックと,カバーリングに入っていくブロックとの距離感が維持されている時間帯が長く保てたな,という印象を持っています。無理に,高い位置からのプレッシングを仕掛けていく,という形はないにしても,比較的高い位置からのプレッシングへの意識は失われていません。そのために,ミドルサードでのボール奪取も機能しているし,ロングレンジ・パスを繰り出されているとしても,ボールを収めた相手に対するアプローチ,そのあとのカバーというタイミングがしっかりと維持されているから,守備応対が大きく破綻することがなかったな,と思うわけです。
 わけですが,PKを与えることとなるプレー,その付近の時間帯はちょっとだけ,守備ブロックが潰れかけていたかな,と思います。相手の攻撃に対して「受けた」時間帯になってしまった,という形かも知れません。


 1点差へと縮まったアドバンテージ。ともすれば,リズムを相手に譲り渡しかねない時間帯に,しっかりと踏みとどまれた。相手をまともに「受ける」ような守備応対に陥らなかったことで,カウンターを仕掛けることができたし,ゲームを決定付けるゴールを奪取することになる。アディショナル・タイムも,決して自陣での防戦だけに意識を振り向けるのではなく,しっかりとボールを相手陣内で保持するところから時間を削り取っていく。


 ホーム・アドバンテージを背景とせずに,という留保を付けるならば,初めてのセカンド・ラウンドであります。ひとつ,結構重い扉に手を掛けたかな,という印象であります。そして,この扉は2002年の段階でも手を掛けていたはずなのだけれど,あのときは開けきることができなかった。
 であれば,セカンド・ラウンド初戦で結果を引き出し,さらなる視界を見せてほしいと思うし,見てほしいと思っています。指揮官が掲げる目標に至るには,まだまだ重い扉が複数残っているに違いない。違いないけれど,最初からさらなる扉を意識することはないでしょう。まずは,ひとつひとつ。戦術的な,とかいう意味ではなく,チームが実戦舞台で急速に熟成度を高め,加速できるようになってきた。セカンド・ラウンドはぜひとも「踏み抜いて」ほしい,と思っています。