重い僅差(Netherlands v. Japan - Group E・#2)。

ファン・マルバイクとは違って,選手たちが警戒感を表現していたこと。


 決して,社交辞令などではなかった,ということになるでしょうか。個人的には,ファン・マルバイクのコメントは国内向け,ということなのでしょう。「格下」と目される相手に対して,必要以上の警戒感を示している,という姿を見せるわけにはいかない,と。けれど,インターナショナル・フレンドリーを戦っている選手たちには,「厄介な相手」という認識もどこかにあったかも知れません。組織性を分断できなければ,「個」という部分を押し出せる状況に持ち込まなければ厳しいのではないか,と。慎重さを感じさせる立ち上がりだったのは,そんな部分も影響しているのかな,と感じさせるところです。


 勝負にこだわってきたフットボール・ネイションに対して,真正面から勝負を挑む。そういうゲームになった,という思いがあります。


 ファースト・ラウンド第2戦,であります。


 4−1−2−3と言いましょうか,いわゆる“クリスマス・ツリー”,4−3−2−1と言いましょうか。ともかくも。ミッドフィールドでしっかりとボール・ホルダーに対するアタックを掛けて,最終ライン,特にセンターがカバーリングに入っていく,という形を作れるパッケージを,そのまま維持してきています。
 相手もウィンガーを使うスタイルでありますから,ミラーになる要素が結構強くて,それだけに出足を間違うと振り回される可能性も高かったわけですが,ポゼッションの数字ほどには振り回されている印象はなかったかな,と思います。相手が流動性を高めて早い段階からラッシュを仕掛ける,というよりも,むしろ「持久戦」に近い形で崩しに来ていた,という部分も作用しているように感じますが,攻撃を仕掛ける,ギアが変わるタイミングで相手に対する守備応対が機能していたように思います。また,自分たちのブロックが崩れることもなかった。


 スコアレス,でのハーフタイムであります。


 「持久戦」を仕掛けていた相手が,動きだしたように映ったのは,後半開始直後であります。ただ,この時間帯にあってもラッシュを仕掛ける,という印象を与えるものではありません。ありませんが,「間合いを詰めてくる」かのようにブロックがプレッシャーを強めてきた,という印象であります。
 守備ブロックが,完全に潰れないまでも,アタックからカバーリング,というタイミングが取りにくい距離感になりつつあった。そんなタイミングで,セットピースを与えてしまう。このセットピースが,試合を決定付ける失点へと結び付くことになります。CKからの一時攻撃に対する対応は,決して悪くありませんでした。その攻撃を抑えたあと,ブロックが押し潰された。このタイミングで攻撃を仕掛けられ,跳ね返したリフレクションを,相手にしっかりと拾われ,ボックス手前あたりの距離からのショットは,このトーナメントを象徴する「ブレダマ」。コースに入っているのだけれど,実際には「入りすぎてしまって」いる。ゴーリーに対しては,あまりに厳しいショットだったな,という印象であります。


 ここで,どのようなシフトチェンジを仕掛けるか,と思ったのですが,ピットが選択したのは「攻撃面を強めること」。失点を最小限に抑え込むことも,当然に意識に収めているでしょうが,それよりも「勝ち点3」を1に減算させることを狙いに行った。その意図は見えていたのだけれど,ピッチでその意図を表現できた時間帯がどれほどあったか,となると,さすがにそれを許さない相手であった,というところもあるでしょう。


 いわゆる,「引いて構えてくる,フットボール・ネイション」。この試合での相手は,攻撃面での理想を貫くことよりも,どれだけ現実的に「勝ち点3」を奪いにいくか,という部分を意識していたようです。もちろん,ファン・マルバイクにしてみれば,もっと崩せたはず,という意識もありましょうが,それ以上にファースト・ラウンドで優位に立ちたい,という意識が強かったはずです。
 この相手に対して,カウンターを有効に繰り出していくチャンスが限られていってしまうのは,ある意味必然かも知れません。局面ベースでの差は,確かに小さなものかも知れない。けれど,その小さな差が,このような試合では集まりがちになる。深さを持った僅差というか,重さを感じさせる僅差,と言うか。ともかく,フットボール・ネイションとの距離感を明確に感じさせるゲームになった,ということもできるでしょう。