不意打ちな宣伝活動、法的措置に。

いままでなかったか,となれば,あったような記憶がありますね。


 各競技場に設置されているLEDディスプレイ(2006年以前は,ADボードですが。),そのディスプレイに描き出されているロゴとはどう見ても違う,ほかのブランドを示すロゴがカメラに抜かれていたことは,確かにあったな,と思うのです。ただし。そのときは必ずしも組織的,という感じはしませんでした。誰か特定の人物、恐らくはシロートに頼んで,という形だったような。
 今回は,かなりしっかりと計画を立てて露出しよう,という意図があったようです。その意図に乗っかるように,HBCも彼女たちをカメラのフレームに収めていました。ちょっと見程度だと,オランダのユニフォーム,あのカラーにあやかった服を着ているだけ,のように見えもする。するけれど,そのフレームには,結構大きなブランド・ロゴが映っていたような,いないような。となると,単純にシロート集団というわけにはいかない,かも知れません。


 これでは,FIFAマーケティングとしても,動かざるを得ないでしょう。メディアが大きく取り上げることで,瞬間風速的に「相手の思うツボ」になってしまうとしても。ブルームバーグのニュース記事をもとに,ちょっとワールドカップの本筋とは違うことなどを書いていこう,と思います。


 スポンサーは1業種に1社。FIFAの原則であります。


 このことに,例外はありません。ワールドカップに参加しているチーム,彼らが移動に使っているバスが,かりにヒュンダイ,あるいはキアではなかったとしても,ヒュンダイ・キアのロゴが大きく表示されます。それぞれのバスに施されたチーム独自のラッピングは,各チームの個性を引き立てるため,と思われがちですが,実際にはバスのロゴを隠す,そんな意図もあるはずです。


 そして,ビールに関してスポンサー契約を締結しているのは,アンハイザー・ブッシュ社であります。競技場へと足を運ばれた方ですと記憶がおありか,と思いますが,ワールドカップではビールを選ぶことは不可能,であります。たとえば,南アフリカなんだから地元のビールが,とかいう話はない。どこで開催されようと,スポンサーが変更されない限りにおいてはバドワイザー以外が競技場内で売られる,ということはあり得ないわけです。当然,競技場にブースを設置すること,LEDディスプレイにロゴを表示させることなど,マーケティングに関わる権利関係はすべて,バドワイザー保有することになり,同業他社が競技場内外において,ワールドカップを利用した宣伝広告活動をするわけにはいかないのです。
 ブルームバーグの記事にもありますが,FIFAのパートナーとなるためには,莫大な金額が動くことになります。それだけの負担をお願いするわけだから,パートナーの権益を守らないわけにはいかない。ワールドカップは,世界的な注目度が高いスポーツ・イベントです。となると,その注目度を利用して宣伝活動を,と考える会社もないわけではありません。FIFAとの関係性がないにもかかわらず,競技場内での露出を狙う。このことを,「アンブッシュ・マーケティング」と言ったりします。


 で,今回「アンブッシュ・マーケティング」としてFIFAが法的措置へと動いた相手が,ババリア。オランダのビール会社とのことです。


 彼らは(と言うか,ブルームバーグの取材に応じたのは彼女だが。),服にはロゴなどが付いていないとのコメントをしているようですが,どうもニュース映像を見る限りでは,冒頭書いたようにトレードマークが胸元にある服を着ていた女性もいたような感じがします。また,TVカメラに抜かれることを意識した印象もあったりします。少なくとも,誰か個人にお願いして,というレベルを超えて「組織的に」アンブッシュ・マーケティングを仕掛けている,と考えられるだけに,法的措置へと動く必要があった,という感じではないか,と思うのです。


 いわゆるスポットCMと比較してみても,それほどに長時間な露出ではないだろう,とは思いますし,トレードマークやロゴを,露骨に表示していたわけでもないならば,それほど強く法的措置へ,という話でもないように思われるかも知れません。
 ただ,FIFAの立場になって考えてみると,パートナー保護が不充分でしかない,という対外的なイメージは致命的なものになりかねません。当然,スポンサー契約で動くおカネに関してネガティブな影響が出る(条件交渉で,強気に出られなくなる)はずですから,ワールドカッププレステージを支えている,フィナンシャルな部分を揺るがすことにもなります。厳しい対応,と映るかも知れませんが,ここまで徹底しておかないと,スポーツ・ビジネスを円滑に動かすことはできない,というのもまた,確かなのだろう,と思っています。