24 heures du Mans 2010.

今季もプジョーかな,と思っておりました。


 少なくとも,途中までは。それほどまでに「速かった」わけですが,その早さは,残念ながら「強さ」という部分に結び付くわけではなかった,と。


 耐久レースの難しさ,と言うべきかも知れません。


 速さも,重要な要素です。でありますが,速さによってのみ,強さが導かれる,というわけではないのです。短期的に速さを表現することができたとしても,そのパフォーマンスを持続的に発揮できなれば,ポディウムを奪取するのは難しい話です。そして,パフォーマンスを持続的に発揮するために重要なのは,トラブルの種を徹底して潰しておくこと,でありましょう。言い換えれば,どれだけ徹底した準備を積み重ねられるか,が求められることになりましょう。想定し得るすべてのトラブルを準備段階で出し切ることで,本戦でのトラブルを回避することが,「強さ」を導く重要な要素となる,と。どこか,フットボール(特にリーグ戦)と通底する要素を感じさせるところです。



 ワールドカップの期間に突入しておりますが,フランスでは「偉大なる草レース」の季節でもあります。そこで,島村さんによるレポート記事(webCG)をもとにしつつ,ル・マン24時間レースの話を書いていこう,と思います。


 日産やトヨタ,あるいはマツダがエントリしていないためか,すっかり日本車メーカと縁遠いレース,という意識があろうか,と思いますが,実際には相変わらず,縁深きレースです。LMP2クラスで頂点に立ったマシン,そのクレジットにある“HPD”とは,“Honda Performance Development”のこと。北米で活動しているホンダのレース部門であります。北米をベースとするファクトリーとは言え,ホンダ,というクレジットを見ることができるのは,モータースポーツ・フリークにとってはうれしいことです。


 さて。総合優勝を争ったプジョー・スポールと,アウディ・スポーツに関してはたたんでおくことにします。


 昨季は,プジョー・スポールがポディウムの頂点に立ち,今季も予選から順調さを感じさせるところがありました。それだけに,アウディプジョーを追い掛ける形でレースを進めざるを得ないだろう,と思っていたわけです。


 この展開を変化させることになるのが,「トラブル」であります。


 島村さんのレポートにもありますが,プジョーには相次いで大きなトラブルが襲い掛かります。あくまでも個人的な推理にしか過ぎませんが,今季のプジョーは盤石な状態で速さを見せていたのではなくて,かなりギリギリな状態,アウディのプレッシャーを感じるような状態で速さを見せていたのかも知れない,と思うところがあります。モノコックにまで影響を与えるようなサスペンション・トラブルにせよ,エンジン・トラブルにせよ,かなりの負荷をマシンに掛け続けていたのかも知れない,と思わせるところがあります。それだけ,厳しかったのかも知れません。
 対してアウディは,昨季の失敗を踏まえてきた,のでありましょう。昨季は,アウディらしからぬ熟成不足を感じさせる戦いぶりでしたし,マシン設計にしても「実戦」で隙を露呈した部分がありました。トラブルらしいトラブルが発生しなかった,というのはひとつには,昨季の失敗を繰り返すわけにはいかない,という意識があってのことだと思います。


 また,「速さ」だけで「強さ」を引き込むことができないことを,アウディのレース・オペレーションを担当するヨーストは熟知しているはずです。


 個人的な推理でありますが,プジョーとの距離感を測り間違えたことで,自分たちに隙をつくってしまったのが昨季であり,その隙はR8,R10と成功を積み重ねてきたことででてきた,「過信」のようなものだったかも知れません。今季は,R15プラスを早期に実戦投入する,という判断よりも,徹底してテスト・スケジュールを消化する,という判断をしてきています。トラブルを徹底して出し尽くす,という意図があってのことだったのでしょう。


 少なくとも,今季のアウディ・スポーツは「いい準備」をすることができていた,と言うことができるのではないでしょうか。どこか,フットボールの世界と共通する要素を感じさせる話だな,と思うところであります。