機能しなかったコントロール(対韓国戦・KCC2010)。

100%で立ち上がりから仕掛けられた,という感じでしょうか。


 そもそも,相手の戦い方を具体的にイメージしていなかったのかも,と思います。そして,相手がどうあろうと,自分たちのフットボールを,という意識が薄かったのかも知れないし,その自分たちのフットボール,という戦術イメージが明確さを欠いていたかも知れません。
 その結果として,相手のリズムにごく早い時間帯から嵌り込むことになった。「速い」リズムに乗せられてしまっている,自分たちのチームのフィットネスがバラついているために,その速さを効果的に利用することも,抑え込むこともできていない。コントロールできないままにタイム・アップ,というゲームだったかな,と感じます。


 相手のリズムから抜け出せなかった,インターナショナル・フレンドリーであります。


 ごく大ざっぱな言い方をすれば,試合のリズムをコントロールする,という部分で明確に後手を踏み,その後手を踏んだ状態から抜け出せなかったな,ということになるかと思います。
 反対側から考えてみましょう。恐らく,相手のアイディアは立ち上がりにひとつのウェイトを置いたものだったでしょう。猛然と立ち上がることで,相手に小さくない違和感を与える。相手が自分たちのリズムで戦えない違和感を持っている間に先制点を奪取,この違和感を混乱へと導く,と。相手のゲーム・プラン,その一部がこのようなものだったとすれば,見事にこの形に嵌り込んだな,と思うわけです。


 相手は,決して特別なことをしてきた,とは思いません。


 フットボール・ネイションズに対して勝負を挑む,50%とは言わないまでも勝負権を,と思うならば当然に持っているはずの戦術的なアイディアでしょう。本戦を目前にしてのインターナショナル・フレンドリーを,「予行演習」としてしっかりと活用してきただけ,と受け取れます。そのときに,相手を上回る気迫を,というのがひとつのアプローチならば,もうひとつのアプローチとして,猛然と立ち上がる相手のリズム,そのリズムを徹底して抑えにかかる,というのもひとつのアプローチであっていいはずです。「結果」にこだわるというのであれば,「予行演習」としては問題があるとしても,フットボール・ネイションズがそうするかも知れないように,徹底的に緩急を意識した戦いをすることで,相手を抑え込むこともひとつの策だったでしょう。本来,指揮官が得意とするはずのリアリスティックな戦いですが,そのリアルさも見えなかった。
 韓国という相手に対して,どのようなゲーム・プランを持っていたのか。本戦に向けて,どのような戦い方をイメージして,このインターナショナル・フレンドリーにぶつけようとしたのか。そのいずれもが不明確でしかない。戦術的なイメージが中途半端なままにピッチに立ってしまったように映るし,それがために相手が一気に引き寄せようとするリズムに対して,有効な防御策を講じることができなかった。加えて言えば,リズムを操る重心であるはずのミッドフィールドがこの試合では機能しなかったために,相手に流れたリズムを引き戻すことも厳しくなった。


 「誰が」,という見方も当然にできるし,スターターが適切だったのか,戦術交代のタイミング,順番がピッチに対するメッセージとして,効果的なリズム・チェンジとして適切だったのか,という方向から見ることも大事ですが,それ以前の,韓国に対して「チームとしてどう戦うか」が不明確だったように思えるのです。


 ・・・立ち上がりの段階で,戦術的なバインド,このインターナショナル・フレンドリーをどのように位置付けるか,というスタンスは相手がはるかに徹底している,という印象を持ってしまった(要は,実力差をどうこう言う以前の問題で後手を踏んでいる)わけですが,その部分に対する(特に,ブースの)コメンタリーはアッサリしたものでした。


 あの「速さ」に対して,「さらに速く」と言わんがばかりのコメントを残していた。何とも暗澹たる思いになりました。本戦を意識するならば,相手の戦い方はある意味ロジカルです。守備的に構えて,だけでは相手を混乱させることが難しい。「勝ち点3」を,となれば,どうしても立ち上がりでリズムを掌握して,相手を混乱させたい(できるならば,混乱したままにタイムアップさせたい)。そのための方法論を,構築していなければいけないはずです。であれば,「混乱」を導く方法論を,用意しているのかどうか,という要素を前提にしながらコメントしてほしいのですが,どうも確固たる前提があるようには感じられない。初手を間違えて,落ち着きのない(自分たちでコントロールできない)ゲームに嵌り込んでいるのに,さらに落ち着きのないゲームにしてしまえば,それこそ相手の術中に嵌り込むだけのこと。それなのに,ひたすら「縦に速く」だけを言っている。それだけか,と。
 さらには,リズム・コントロールという意識だったり,エリア・マネージメントという発想があるのかどうか。ボール奪取位置が揺れ動いてしまっているために,攻撃の仕掛け方も当然安定していかない。であれば,まずはどこでボールを獲るのか,という話になるはずなのに,「高い位置」だけが独り歩きしている。


 リーグの権威を背負うべき代表が,中途半端な戦いをしているだけでも困ったもの(リーグ戦を侮られることに等しい),なのに,そのゲームをコメントする立場のひとが,あまり考えているようにも思えない。これでは,フットボールという競技のプロモーションがうまくいくはずもない,と感じてしまいます。