チェルシー戴冠から思うこと。

前回は,プレミアシップ・ポイントという記録でした。


 今回は,得点数,という記録です。


 正直なことを言えば,ちょっと意外な印象を受けてもいます。
 バランス感覚,という部分で考えると,前回優勝時の指揮官であるジョゼ,彼とどこか共通するところ,攻撃面と守備面のどちらにウェイトを傾けるか,という選択では,(あくまでも相対的に,ですけど)守備面に多めのウェイトを掛けるような印象をカルロには感じていたのですが,2009〜10シーズンのスタンフォード・ブリッジは,そんな先入観とは違う戦い方を表現していたように思います。



 攻撃的,という言葉だけでもないし,当然,安定志向というだけでもない。ゲームを動かしていくリズムにしても,アップテンポに仕掛けていくだけでもないし,言うまでもなくスローに動かすだけでもない。スローダウンしている時間帯にあっても,ポジションを細かく修正するためのフリー・ランは積極的に仕掛け続けているし,小さな距離でのフリー・ランだから,決して急ぎすぎているという印象がない。攻撃を強めよう,というタイミングは,誰か特定のタレントだけがシフトダウンをかける,というわけではなくて,誰もがスティック・シフトに手を掛けているような印象です。ちょっとしたきっかけを「感じる」速度というのか,そんな部分を強く印象に残す最終節だったように思います。


 さて。最終節に勝負権を残していたのはスタンフォード・ブリッジに,オールド・トラフォードであります。最終節で「勝ち点3」を奪取すれば,2位に付けるユナイテッド,彼らの戦いぶりにかかわらず,チャンピオンであることを示すカップを手にすることができる,そんな位置でありました。


 ともすれば,プレッシャーの掛かるかも知れない最終節,お約束の同時刻開催でありましたが,スタンフォード・ブリッジでの最終節は,チェルシー,というチームのストロング・ポイント「だけ」を存分に表現するようなものだった,と思います。ゲームの流れについてはスポナビさんのニュース記事におまかせするとして。


 個人的に見入っていたのはゴール・ラッシュではなくて,しっかりとした相互理解を基盤とするリズム・コントロール,そして仕掛けるタイミングでの徹底した姿勢,でありました。これらの要素は,浦和のフットボールをさらに進化させるために,大きなヒントになるのでは,などと思っていたのです。


 ウェスト・ロンドンのクラブ,ホーム・キットの色もまったく違うクラブの最終節に見入りながら,勝手に考えていることは浦和方向に流れていた,というわけです。


 さて。ここ数節,間違いなく2010スペックとして,狙っているフットボールを表現できている時間帯があるな,と思いますし,それだけではなくて表現したいフットボールを押し切ることで得点奪取へと持ち込めてもいます。そこまではいいですが,必ずしもリズム・コントロールが巧くいっている,という印象はありません。むしろ,相手のリズムに1回乗せられてしまって,そこからリズムを引き寄せ直す,という形になってしまっています。それでも,名古屋戦のように「後手」を精算できればいいけれど,横浜FM戦のように後手を踏んだままで,リズムを自分たちから悪くしてしまうという循環に踏み込んでしまうと,狙っているフットボールが霞んでしまいかねません。相手のリズムに乗せられていると,仕掛けているのは確かであるとしても,徹底した攻撃にどうしてもならなくて,中途半端な高さでボール・コントロールを失う。さらにチームのバランスを,という形に嵌り込んでいくように見えるのです。


 ならば,現実的な戦い方に軸足を置けば,というアプローチもあるか,とは思いますが,それではいまの攻撃,その分厚さを手放してしまうことにもなりかねないし,めぐりめぐってチームの強さを手放してしまうことにもつながるかな,と思います。攻撃面で,構築しつつあるストロング・ポイントを捨て去ることなしに,どのようにして現実性を上積みしていくのか,という課題が提示されている,と見るべきかな,と。そして,ひとつのヒントが,最終節でのチェルシーなのかな,と感じるのです。


 チームとしての戦い方に,もっと「緩急」が感じられるようになっていいかな,と思うのです。


 攻撃を仕掛けているときのリズム,特にシンプルにボールを動かせているときのリズムは,決して悪くありません。仕掛けている局面でのリズムは,加速態勢を押し切れるくらいでいい,とも感じます。ただ,仕掛けるタイミングに持ち込むまでのリズムが,思うよりも変化していないかも,と思うわけです。相手守備ブロックが持つウィーク・ポイント,その隙を突くまでのタイミングでは,もっとスローに仕掛ける形があってもいい,と思うし,そのためのフリー・ランを細かく仕掛けられるといいな,と。そして,仕掛けている時間帯での,あきらめない姿勢,と言いますか。縦方向の速さも重要な要素だけれど,「強さ」を合わせ持つことでサポートが入る時間を作り出せる。


 欧州との距離感,その距離感を体感するためには,どうしても確保しなければならない足場があります。その足場を確保するためには,どうしても“バランス”を意識しないといけない。思うに,そのバランスはリズム・チェンジ,という要素も大きいかな,と感じるわけです。


 ちょっと早い話になりますが,ちょっと前にメディアさんが伝えていた欧州合宿,そこでは主要クラブの「リズム感」を体感するチャンスがあるはずです。浦和として狙うべきリズム感をつかんできてほしい,と思います。