ピッチが不安なウェンブリー。

ちょっと,他人事には思えませんですな。


 2002年を控えて中野田に竣工した競技場も,かなり綱渡りな状態だったわけですし。


 とは言いながら,タイム・スケジュールに余裕が出てくると,しっかりとした養生が可能になった,というのも確かであります。最新のFIFAスタンダードからすれば,サイド・スタンド(ゴール裏)にルーフが架かっていないなど,問題となるはずの要素が,実際にはピッチ・コンディションにとっては有利に働いている,という部分もありましょう。メイン・スタンドやバック・スタンドに架けられているルーフにしても,防風性を強く意識した設計になっているわけではないので,秋春制への移行を考えるとゾッとするところもあったりしますが,反面でピッチへの導風が確保されている,とも見えるわけです。


 物事には表面と,裏面がある,などという言い方があります。この言い方を使うならば,中野田のケースではデメリットに映っていたことがメリットになった,と言うべきかも知れません。となると,逆もあり得る話ではないかな,と思います。


 今回は,東本さんのコラム(スポーツナビ)をもとに,ピッチの話を。


 かつては”ツイン・タワー”が代名詞,現在では特徴的なアーチを持っている,ウェンブリー競技場でありますが,どうもピッチ・コンディションがよろしくない。そもそも,全面改築をするにあたって,ピッチの養生を最優先項目にしている気配がなかったであるとか,完成から現在に至るまで10回ものピッチの再敷設が実施されているだとか,競技場の最も重要な要素である「芝」が危うい状態であり続けているようです。その要因として指摘されているのが,フットボール以外のイベントに貸し出されている,ということだそうで,この状況が続くと2018年の招致活動にネガティブな影響を与えかねない,という論に結び付いているのだそうです。


 なるほど,と思うと同時に,あまりに多い再敷設回数を思うと,物理的な問題点を考えたくなります。つまり,競技場がピッチの養生に有利な設計になっているのかどうか,という部分の検討も必要なのでは,と思うわけです。


 FIFAスタンダードでは,スタンド全体へのルーフの設置が要求されています。競技場へと足を運ぶひとたちへのホスピタリティ,という側面を意識してのことだと思いますが,こちらは「表面」の話。「裏面」を考えると,ピッチに対してはちょっと厳しい条件になる可能性も否定できないように思うのです。実際,ウェンブリー競技場に設置されているルーフはかなり大きなものであり,競技場上方からの写真を眺める限り,日照の確保であったり通風の確保はなかなかに難しいような印象です。となると,養生期間は通常よりも長くなる(難しくなる),と容易に想像できます。そのときに,フットボール以外のイベントでピッチが隠される,あるいはピッチに負荷を掛けてしまうようなことがあれば,確かに根付かないままになる可能性はあります。その被害をまともに受けたのが,今季FAカップ準決勝で戦ったスパーズであり,ポーツマスだ,ということでしょう。


 2018,あるいは2022招致に向けて,恐らくは水面下で日本各地の競技場は改修の可能性を探っていると思います。横浜国際も当然に,ですし,中野田も考えているに違いない。そのときに,このウェンブリーの話は大きな示唆になるのではないか,と思っています。ホスピタリティへの配慮も大事ですが,フットボールを支えるためのピッチはさらに大事なわけですから,このバランスはしっかりと取っていくべきです。バランスが微妙に崩れると,ウェンブリーのようなことになりかねない,という意識を関係者のひとたちには持っていてほしい,と思います。