初陣を飾ったアウディ。

「強さ」が戻ったな,という印象です。


 もちろん,レーシング・マシンにとって「速さ」は重要な要素です。ですが,速さだけが勝負を決定付ける要素だ,とは言い切れない,というのがレースの怖さであり,怖いがゆえの魅力ではないかな,と思います。


 今回はフットボールを離れまして,オートスポーツさんのニュース記事をもとに,新たなレーシング・マシンを投入したアウディについて書いていこう,と思います。


 アウディが主戦場とするのは,“スポーツ・プロトタイプ”というカテゴリであります。アメリカであればセブリング12時間であったりデイトナ24時間,ヨーロッパですとル・マン24時間などの耐久レースを戦うカテゴリですから,「速さ」は勝負を決定付ける要素,とは言いにくいわけです。強いて言うならば,チームとしての「総合力」が問われる,と言いましょうか。
 この総合力を考えるとき,重要なのは「準備」なのかも知れない,と感じます。レーシング・マシンの開発,熟成を筆頭として,ピット・クルーの作業ルーティンの確認など,どれだけ周到な準備をしてきたか,という要素が,「強さ」を構成するにあたって相当程度に大きな部分を占めているのではないか,と。


 レーシング・ディーゼル,というアイディアをサルテに持ち込んだR10は,確かに成功を収めました。このときの準備は徹底されていた,という印象を持っています。その後継であるR15にしても,決して緩さを感じさせる準備ではなかった,と思いますし,実際にセブリングを制しているのですから,マシンが持つポテンシャルが低かった,あるいはパフォーマンスを引き出すためのアプローチに問題があった,というのは難しいでしょう。ただ,レースは「相手」があることです。自分たちの準備を上回る準備を相手がしていれば,結果として準備が不足していた,ということになりかねません。その相手は,同じくレーシング・ディーゼルを持ち込み,同じル・マン・プロトタイプではあるけれどクローズド・ボディを持ち込んできたプジョー・スポール。彼らの後塵を拝する結果となったわけです。


 ル・マンという舞台で存在感を示してきたアウディにとって,そしてレース活動を支えてきた(と言うか,レースに関しては主役と言っていいと思いますが)ヨースト・レーシングにとって,「復権」というのが重要な目標となっていただろうことは,容易に想像できるところです。そして,車両規則の変更に対応した新たなマシンを投入してきます。それが,今回ポールリカール8時間を制した“R15プラス”であります。彼らが慎重にプログラムを進めているのかも,と思ったのは,ALMS参戦がアナウンスされなかったこと,です。実戦での熟成を図るのではなく,自分たちでのテスト・セッションを組むことで,しっかりとしたスケジュールの中での熟成を狙っているだろうことがうかがえる,そんなリリースだったのです。
 そして,今回のLMS開幕戦が,プジョーとの今季初めての直接対決だったわけでありますが,この8時間耐久レースで安定したパフォーマンスを示すことができたようです。


 あくまでも,アウディの狙いはサルテでの覇権奪回,でありましょう。まだまだ通過点,という意識でありましょうが,プジョーにしても黙ってアウディの逆襲を受けているつもりはないでしょう。真正面から「強さ」がぶつかり合うル・マンであることを,いまから期待しているところであります。