対湘南戦(10−05)。

ひさびさに見た,チェンジサイド。


 最初は,風を考えてのことか,と思いましたが,MDPでのインタビュー記事を読んでいたこともあって,「ひょっとすれば」と思うところがありました。関塚さんが率いていたときの川崎も,思えばチェンジサイドを好んでいたな,ということであります。恐らくは,関塚さんと同じ発想をしていたのではないか,と。「お約束」の進め方を崩すことで,微妙な違和感を作り出せれば,と考えたのかも知れませんが,リズムを掌握する,というよりは自分たちからリズムを手放すような時間帯があまりに多かったように見受けられます。


 50:50近くにまで持ち込めてはじめて,奇策は機能するはずです。


 さらに言うならば,「攻撃の型」を持っている必要もあるはずです。確かに,「型」を感じる攻撃もありましたが,基本的には「型」に持ち込む前段階でリズムを持って行かれていた。


 今回は,対戦相手への印象からはじめてみました。いつも通り,の湘南戦であります。ファイナル・スコアから受ける印象と,ピッチから受けていた印象とに,いささかのズレがあるな,と感じます。「決定力」という部分に行き着いたり,フィニッシュへ持ち込むときのアイディア,という部分に課題を残す,という見方もできるかも知れませんが,ビルドアップ,という側面で考えたときには,かなりの手応えを得ることのできたゲームではないか,と感じます。


 さて。今節で鍵を握っていたのは,阿部選手と細貝選手でコンビを組む,セントラル・ミッドフィールドのエリアでありましょう。相手がボールをコントロールしている局面ではボール奪取,という部分でしっかりと機能すると同時に,相手ゴーリーからのリスタートをこのエリアでコントロールできたことで,主導権を掌握し続けながらゲームを動かす時間帯を,大きく積み上げられた,という印象であります。
 ボール奪取,という側面を考えると,今節はしっかりと相手ボールホルダーへのフォア・チェックが機能していた,というのも作用していると感じます。攻撃ユニット,特にアタッキング・ミッドフィールドの位置に入っている選手たちが高い位置でプレッシャーをしっかり掛け与えている(少なくとも,コースを絞りに行っている)ことで,ミッドフィールドでの守備応対がやりやすくなっているな,という印象でしたし,ボールを奪う位置が高くセットできることで,最終ラインがバランスを大きく崩して守備応対を強いられる,という局面が少なかった。加えて,サイドバックが守備面で低い位置を取らざるを得ない,という時間帯を最小限に抑え込むことができたことで,攻撃面で人数を掛けることができいていたな,と感じます。ボールの奪い方が安定していることで,ボールを奪う位置を相手ゴールに近い位置へと引き上げていくことができる,というように,かなり攻撃面,特にビルドアップ段階での熟成度は上がってくるだろうな,と感じるものがありました。


 中盤でのコントロールが相当程度に機能していた,ということを裏返せば,相手は守備ブロックをできるだけ崩さない,という意識を強く持ってゲーム・プランを構築していた,ということにもなるでしょう。


 中盤でゲームをコントロールするという部分よりも,最終ラインがしっかりとした守備応対を繰り返す,という部分に強く意識を傾けていたのでしょう,アタッキング・サードでの窮屈さが付きまとってしまったように感じます。サイドを起点に攻撃を,という部分が強くなると,深いエリアまで攻め込んでしまうためにかえってフィニッシュでの窮屈さが,という局面が,今節においても確かに見受けられたのですが,相手守備ラインが低いことを意識してでしょう,アタッキング・サードに入っていくか,というエリアから,ゴール・マウスを視界に収めた段階で積極的にシュートを放つ,という形も見ることができていました。それだけに,最終的な決定力,という部分で「もったいない」という印象を残すゲームだったようにも感じはします。


 また,ポジションの循環,という部分からも今節は収穫があったと思います。


 攻撃へのアクセント,という側面からロングレンジ・パスを,という見方もあって,このような見方を前提に考えると,今季のパッケージではロングレンジ・パスが有効に機能していない,という言い方もできるか,と思います。しかし。ポジション循環,という側面でパッケージを見直してみると,今季は連携が深まってきているかも,という印象を持ちます。
 セントラル・ミッドフィールドにせよ,最終ラインにせよ,「役割分担」という言葉を使って説明したくなるような状態が多かったように思います。思いますが,今節はポジションを積極的に循環させることで,ショートレンジ〜ミドルレンジ,というコンセプトを維持しながら,同時に相手守備ブロックに揺さぶりをかけていく,という方向性を押し出せたように受け取れます。ごく簡単に言ってしまえば,坪井選手の攻撃参加であります。フィード,という選択をしない代わりに,機動力を生かす。たとえば,サイドバックにボールを預けると,サイドバックを大きく追い越すようにして攻め上がり,相手のスペースを狙いに行く。局面によっては,相手側のベースライン近く,あるいはボックス前のエリアにまでポジションを上げて,攻撃参加を仕掛けていく,と。なかなか,ボール・ホルダーの視界に収まる,という形になりきらなかったためか,決定的な局面を作り出す,という部分にまで関与しきれなかったかな,とは思いますが,09シーズンから継続するフットボール・スタイル,そのコンセプトを思えば,坪井選手の攻撃参加は間違いなく歓迎すべき話,であります。


 ・・・と,収穫面にフォーカスしてみましたが。


 今節にあっても,まだ課題がクリアしきれていないな,という印象を与える時間帯がありました。今節,ゲームのリズムをつくっていた要素を回避されてしまうような組み立てを受けるとき,であります。今節においては,立ち上がりの時間帯や先制点奪取直後の時間帯,そしてゲームをどのようにして落ち着かせ,クローズするかという時間帯で課題を出してしまったように感じますが,その課題をどのようにクリアするか,という部分はしっかりと意識し続けておいてほしい,と感じます。


 内容面から見れば,もっと違ったファイナル・スコアを残せたのではないか,とは思いますが,大事なのは「継続するフットボール・スタイル」をしっかりと熟成,進歩させることであったり,その手応えを「勝ち点3」という客観要素でさらなる進歩に向けた「足掛かり」に変えていくことだったりであろう,と思っています。手放しで,というわけにもいかないけれど,だからと言ってことさらに課題だけにフォーカスする必要もないでしょう。


 内容面での手応え,足掛かりを得た,というように考えるべきゲームではないか,と感じています。