第47回ラグビー日本選手権・決勝戦。

かつての,「東京三洋電機ラグビー部」。


 その姿を,どこかに見るような気もします。


 もちろん,ワイルドナイツに,というわけではありません。彼らは東京三洋の良き伝統を受け継ぎつつ,勝負という部分では“モデルチェンジ”,をしてきた。強さを,勝負に結び付けることができるように「やっと」なった,とも言えるでしょうか。まだ,レギュラー・シーズンでの流れをプレーオフ・トーナメントに引き継げない,という課題は残っているけれど,「頂点を陥れる」ための手法を,しっかりと手に入れた。


 そうではなくて,ヴェルブリッツにどこか,かつての東京三洋電機ラグビー部と重なる要素を見るような思いがある,というわけです。ということで,ラグビー日本選手権,その決勝戦であります。かなり時期にも遅れてしまいましたので,ちょっとゲーム以外の要素も含めながら書いていこう,と思います。


 では,“Runner-up”であるヴェルブリッツからはじめますと。

 勝機は,間違いなくあった,と思います。


 決勝戦だけを取り出してみれば,ひとつの要素があまりに重要な鍵となってしまったけれど,そもそもワイルドナイツに対して真正面からの勝負を挑むことができる,もうちょっと言えば,シルヴァーウェアに手を掛けることができるだけのポテンシャルを持っている,という部分はすでに,プレーオフ・トーナメントで示されていたように思います。リーグ戦のプレーオフでは,ワイルドナイツに先手を打たれながら,後半に猛追を仕掛け,ともすればゲームをひっくり返すことができるのではないか,と思わせる戦いぶりを見せています。その戦いぶりを選手権に持ち込むかのように,前半を立ち上がってきた。この立ち上がりに対して,ワイルドナイツは「受ける」形になってしまった。さらには,仕掛けを強めていこう,というタイミングでミスを誘発してしまう。ここまでは,間違いなくプラン通りだったであろう,と。


 けれど。プランにクラックが入ったきっかけは,やはり時間退場でありました。


 単純に,フィールドに立っている選手がひとり欠ける,というのではなくて,チーム戦術にちょっとした綻びを生じさせ,さらにはチームに「ひとりが欠けたよりも大きな」負荷が掛かりはじめてしまう。その負荷を,相手は見逃さなかった。


 ポテンシャルはありながら,頂点に立つことができていない。特に今季は,フィールドに持てる能力をしっかりと表現していながら,それでも結果に届かない,という印象を残しているように思います。その意味で,彼らの姿はどこか,かつての東京三洋に重なるように思えてしまうのです。「あと少し」。この距離を縮めるのが,相当に厳しいタスクになるだろうとは思いますが,縮められないようなチームではない,と思っています。


 対して,ワイルドナイツであります。


 プレーオフ・トーナメントでの追撃が,どこかに残っていたでしょうか。結果として,相手の戦い方を「受けた」ように思いますし,さらにはミスでリズムを悪くしてしまう。決勝戦としては,やってはならない形で前半を折り返したな,と思います。思いますが,もともと持っている能力からすれば,まったくのスコアレスに抑え込まれたまま,というわけにはいかないはず(好意的なバイアス,であります)。
 その反発力が機能しはじめるのは,相手のショートハンドであります。このショートハンドをきっかけとして,リズムを引き寄せに掛かります。シンビン解除まで,という意識になる時間帯にトライを奪取,流れを引き戻すきっかけをつかんだように感じます。そしてこの時間帯から34分あたりまで,しっかりとワイルドナイツの時間帯を作りだし,その時間帯でゲームをひっくり返すことができた。


 結果的に,3連覇であります。


 ありますが,立ち上がりは「らしさ」を見事に抑え込まれ,リズムを出せないままに前半を終えさせられた,という感じです。当然,この部分は課題としてクリアしてほしいものでありますが,その反面でいい反発力ではないか,とも思います。そして,ワイルドナイツと言えば,なトニー・ブラウンがしっかりとボール奪取勝負に参加,という側面からもチームがライト・トラックに乗っているな,と感じます。かつては,トニー・ブラウンが持つイマジネーションに付いていく,というような印象も与えたことのあるチームが,しっかりとブラウンを使えるようになっているし,彼「だけ」が鍵を握るようなラグビー・スタイルから踏み出してきている。
 トニー後を見据えてチーム・ビルディングを,という意識もどこかにあるだろう,と思いながら,トニーが持ち込んだエッセンスは間違いなくワイルドナイツのスタイルとして落とし込まれてきているな,という印象を持っています。