オフ・ザ・ピッチな心理戦(88回全国高校サッカー・決勝戦)。

局面ごとを切り取ってみると,ともすれば違うシナリオを書けるかも知れません。


 けれど。


 フットボールはあくまでも,45分プラスという時間枠があります。局面を制することができたとして,時間までを制することができるかどうかは,また別の話であったりします。ふと,そんなことを思ったりします。


 またまた軸足をフットボールに戻しまして,高校サッカーであります。


 まずは,ランナーアップに敬意を表しつつ,青森山田に対する印象について。


 いいフットボールを展開していたのは,確かだと思います。中盤での展開力などを取り出してみても,かなりの完成度を感じましたし,青森山田フットボールを構成するタレントも相当な水準にあるな,と感じます。
 ただ同時に思うのは,この武器を使い切れなかったな,ということです。
 青森山田にとって,フットボールの重心は中盤でありましょう。中盤で攻撃リズムを組み立て,相手守備ブロックを揺さぶる,と。となれば,中盤にいい形でボールが収まらないといけないはずですが,どうも決勝戦での青森山田はボールの獲りどころが違っていると言いますか,ボール・コントロールを失ってからの対応で後手を踏んだと言いますか。相手のフットボールに嵌り込んだまま,なかなか抜け出せずに悪循環を止められなかった,と言いますか。持てる能力をしっかりと国立霞ヶ丘のピッチに,というわけにはいかなかったかな,と感じます。


 対して山梨学院ですが。


 ゲーム・プランの構築,というオフ・ザ・ピッチな側面で先手を取ったのだろうな,と思います。
 中盤で,真正面からボール奪取勝負を挑んでしまえば相手のリズムに乗る結果になるかも知れない。相手のフットボールに乗らないためには,立ち上がりの時間帯から徹底して仕掛け,リズムを引き寄せてしまうことだ,と。恐らくは,そんな狙いがあったと思いますが,その狙いは的中したな,と思います。ボール奪取への意識を高め,攻撃へと転じる位置を高くしていく,と。
 当然,チームはコンパクトさを保つことになりますから,選手間の距離感は悪くありません。先手を確実に取る,という意識が,先制点奪取へとつながったのだろう,と感じます。


 加えて印象的だったのは,ボール・コントロールを奪ってからの「縦」への速さ,であります。


 ともすれば古典的な“キック・アンド・ラッシュ(ラン・アンド・ガン)”にも見えますが,フリーランを仕掛けていく前線や中盤(アウトサイドに開いている時間帯が多かったでしょうか)は,ボール奪取からしっかりと連動して,しかも迷いなく動き出しを見せていました。
 ロングレンジ・パスを基盤に,という側面では古典的,ではあるのだけれど,パスを繰り出す側とパスを収める側とでの連動性を見れば,単純に古典的といいきるのもどうか,と感じる攻撃スタイルでありました。


 ・・・当然に,90分プラスを通しての計算もありましょうが。


 山梨学院を率いる指揮官は,90分という時間枠すべてに同じ重さをかけるのではなくて,立ち上がりからの時間帯に,相当程度の重みを掛けていく,という判断をしたと受け取れます。
 対する青森山田の指揮官は,「普段通り」を意識させたのかも知れません。


 決勝戦という,あとのないゲームにあってはどちらも大事なことでありましょう。ありましょうが,「相手のフットボールを効果的に封じるにはどうすべきか」という側面はどうしても無視できない要素であるように思います。
 オン・ザ・ピッチでの勝負も見応えのあるものでしたが,オフ・ザ・ピッチで展開されただろう,指揮官の勝負もまた,興味深い決勝戦であったように思います。