種蒔き。

経済状態を思えば,当然影響を受けると見るべきでしょう。


 ただ,すべてが経済状態で説明できるとは思っていません。むしろ,経済状態に隠れた部分もあるはずだ,と思うところもあるのです。たとえば放映権も,どこかで関わっている部分があるかも知れません。


 ただ,今回は違った視点から考えてみようか,と思います。


 平均観客動員数が微減=Jリーグ,というスポーツナビさんの記事をもとに。


 ちょっと,関係なさそうな話からはじめますと。


 現段階において,住宅街に寄り添った競技場は,どれだけあるでしょうか。競技場に向かう道沿いに,商店街や住宅街がある,そんな立地条件を持った競技場が,どれだけあるでしょうか。もうちょっと言うならば,無理をすることなく自転車で,あるいは歩いて競技場へと向かうことのできる,物理的にも心理的にも「近さ」を持った競技場が,どれだけあるでしょうか。


 実際には,それほど多くはないはずです。


 競技場に通い慣れていないひと,例えばはじめて競技場へと足を向けるひとは,恐らく公共交通機関を使おう,と思うはずですし,そもそも駅から遠い,などのハンディを背負った競技場ならば,そもそも公共交通機関が重要な動線にならざるを得ません。


 となると,「街」に熱さが伝わっていかない可能性も,あり得る話だと思うのです。


 マッチデイが,競技場だけで完結してしまって,街を含めた形でのマッチデイにまでなっていない。そのことが,めぐりめぐって競技場へと足を運んでくれる,「地元のひと」を減らしてしまってはいないか,と思うのです。


 浦和の本拠地は2001シーズンから,緩やかに駒場から中野田へとシフトしはじめました。クラブがステップを上がろうとするタイミングと,セインピスタである中野田の竣工時期が重なったために,このシフトはスムーズに進んだ,ように感じられます。


 けれど,浦和の街との物理的な距離によって,「街」とのかかわりが希薄になっていく可能性を孕んだ。藤口さんは,敏感にこの危険性を察知したのでしょう。


 過去数季,シーズン終盤に展開された“ALL COME TOGETHER”というプロモーションは,一義的には観客動員数アップ,という側面を持つものです。ただ同時に,もういちど浦和の「街」との関わりを密にしていこう,そのきっかけにしよう,という意図もあったはずだ,と感じています。今季,「駒場ウィーク」や「駒場デー」が設けられたのも,基本的には同じ発想ではないか,と思っています。


 クラブが観客動員数アップでできることとは,かなり遠回りな話かも知れませんが,地域との関わりを考え続け,働きかけ続けることにもあるのではないか,と思うのです。


 言わば,「種を蒔き続けること」ではないのかな,と。


 現社長は,アウェイ・サポータ方向からモノを考えていたようです。


 確かに,見直しを図るべき部分もあるかも知れない。スタジアムの動線であったり,フードなどのホスピタリティ面であり。


 しかし。現社長のコメント,特にメディアを通して伝わってきたコメントは,「浦和」を立脚点として語られたものではなくて,どこか中立的なものに映った。さらに厳しく言うならばホーム・タウンに働きかけることではなく,アウェイに働きかけることで競技場の空席を埋めようとするかのような発想に映ってしまった。


 藤口さんは,確かにファースト・チームを迷走させた部分はあるかも知れません。結果として,クラブのマネージメントにもネガティブな影響を与えてしまった,と。けれど,浦和の街との関わり方,という部分ではアイディアをお持ちだった,と思います。経営に関する引継事項も重要ですが,佐藤さんや藤口さん,クラブ・スタッフがサポータ,ファンとともに築き上げてきた“フィロソフィ”も同じだけ,あるいはそれ以上に重要な要素ではないのか,と思うのです。


 ・・・本題から外れましたが。


 ホーム・タウンとの関わり方は,恐らく千差万別でありましょう。川崎さんがやっているようなアプローチもひとつの例でありましょうが,川崎さんのやり方だけが正解ではない,というのも確かでしょう。それぞれのクラブが,それぞれのホーム・タウンに最も働きかけることのできるアプローチ,それらを考え続け,動き続けることがいずれは,観客動員数を浮上させるきっかけとなるのではないか,と個人的には思っています。