対柏戦(09−10A)。

ヘビー・ウェットな霞ヶ丘のピッチ。


 中野田とは芝目の長さも違うでしょうし,さらに水分を含んでいます。スタッドの変更も必要だったでしょうし,グリップ感の違いもあったでしょう。軸足のグリップが違えば,ボール・コントロールへの影響もあったはず。そしてボールそのものも,水分をまとっています。


 パス・ワークを基盤として意識するフットボールには,感覚のズレをもたらす要素でありましょう。ちょっとした,しかし確実に狙うフットボールへ影響を与える要素があった,と感じます。


 そして,連戦の最中にあるチーム・コンディション。


 試合を通じて課題が提示されたとしても,その課題を解決に持っていくだけの時間的な余裕がない状態,であります。


 単純に条件面だけを考えても,なかなかの厳しさがあります。さらに,戦術的な部分での厳しさも加わったように思います。


 ただ,その厳しさをリアルに乗り切った。スタンディング,という側面だけではなくて,「勝負強さ」という要素がチームに戻ってきている,という側面を収穫と捉えるべきではないか,と感じます。


 いつも(以下略),の柏戦であります。


 この試合,ここまでの試合とはちょっと違う立ち上がりでした。


 カンタンに言うならば,立ち上がりで「受けて」しまったと思うのです。そして,ボールの収まり方が悪かったとも。このことを裏返せば,相手がスカウティングを通じて明確なプランを描いていた,とも言えるでしょうか。


 あえて,反対側の視点も織り込みながら考えてみますと。


 たとえば。ビルドアップの最初期段階でのプレッシャーは,(もちろん局面によって違いは出ますが)それほど積極的には掛けてはこない。最終ラインからセンター・ハーフにパスが繰り出され,ボールのポジションを高めていこうというタイミングです。そのタイミングを,相手は狙っていた,と受け取れるのです。


 ボール・サイドで真正面からの勝負を挑んでしまえば,オープン・サイドをつくってしまいます。ならば,ボール・サイドでの数的優位に持ち込まれてしまう前段階で,ボール奪取を狙った勝負を挑む。


 浦和のリズムに真正面から立ち向かっていくのではなくて,リズムを作り出す,その初期段階でのボール奪取を意図することでリズムの寸断を狙う。相手の狙いをアウトサイドから読み取るならば,恐らくはこのようなものとなるのではないか,と思います。


 対して,浦和はコンディションに対応するためのフットボール・スタイルを微調整する,という部分は最低限度に抑え込んだ立ち上がりをしていたようです。そのためか,相手の積極的な守備に対して引っ掛かってしまう時間帯がいささか多かった。それだけに,セットピースからの先制点奪取は大きな要素になってくれるのではないか,と思ったのですが,ゲームをイーブンの状態へと引き戻される形になった局面は,ボール奪取位置こそ違うけれど,相手が狙う形をつくらせてしまったように感じます。


 そして,セットピースからの失点でビハインドを背負う。相手が意図し,描いてきたゲーム・プランからなかなか抜け出せずにハーフタイムを迎えた形,です。


 45:00から,再びゲーム・クロックが動き出す。このタイミングで,戦術交代を掛けてきます。セントラルとトップの構成を1−3というベースから2−2というベースへと実質的に変更するような形です。コーチング・スタッフが意図するところは別にあったかも知れませんが,この戦術交代は09スペックのフットボールをリアルな方向へと振り向ける,そのきっかけとしても作用したように思います。


 そして,相手の意識が守備面へと傾いてきたという要素も絡んでいたように思われます。中盤で守備を展開する,という形から,中盤〜最終ラインで構成されるエリアで守備を,という形が増えてきます。そのため,基盤となるパスがショート〜ミドルレンジから,ロングレンジに傾く時間帯が増えてきます。攻撃の組み方が,09スペックを強く意識したものから,リアルな方向へと実質的にシフトしてきた,とも言えるでしょうか。


 最終的な局面で,ボールをゴール・マウスへと沈められませんでしたが,ゴーリーからシンプルに相手守備ブロックを断ち割るボールが繰り出され,トップがそのボールに反応する,という形がありましたが,「縦」方向へのシンプルさを意識した戦い方によって最終盤のリズムを引き寄せた,と感じます。


 ・・・09スペックの熟成,という側面からいうならば,評価は違ったものになるでしょう。


 でしょうけれど,条件面を冷静に考えるならば,09スペックのフットボールを表現するには難しさが付きまとったはずだとも感じます。むしろ,指揮官が言うところの「時間的な余裕」を勝ち点3奪取によって作り出した,と見る方がフェアだろう,と思います。加えて言うならば,リアルな姿勢と09スペックのようなフットボールをどう両立させるか,という部分もチームには大きな要素になると思います。


 今節に限らず,コンディションがフットボールに決して好影響を与えるとは限らないゲームが出てくるはずです。そのときに,スタイルが抑え込まれてしまったのみならず,勝ち点までも奪取できなかったとすれば,チームの方向性に対する確信を揺るがす可能性も,最悪考えなければならない。そのときに,チームを踏みとどまらせるのは“リアル”さかも知れない,と思うのです。


 そのリアルさが09スペックには不要か,と言えば,決してそんなことはないはずです。


 踊り場といえば踊り場だし,新たな課題をクリアするには時間も要る。その時間を,勝ち点とひき換えにするのではなく,リアルに時間的な余裕(リードタイム)を奪っておいたと意識付ければ。そして,チームが積み重ねてきた歴史と,新たなフットボールが結び付けば。そのきっかけとしてこの連戦が位置付けられれば,必ずしも収穫は少なくないと感じるところです。