「舞台」が問題なウェンブリー。

決定的な,時間不足だったのでしょう。


 ブーツからのグリップを支えられない。支えられないどころか,スタッドが刺さった周辺を含めてめくれ上がってしまう。


 そんな状態が,かつて中野田にもありました。ありましたが,いまはまったく過去の話です。


 中野田はFIFAスタンダードを充足すべく設計されたスタジアムですが,「かつての」スタンダードであるがために,そしてスタンドの耐候性をそれほど強く意識していないがために,ピッチが良好なコンディションに保たれるようになったのではないか,などという推論を立てたくなりました。


 ということで,今回はフットボールど真ん中ではなくて。


 スポーツナビさんの記事をもとに,スタジアムに関する話を書いてみようと思います。


 冒頭にも書きましたが,最初にこの記事を読んで思い起こしたのは,ごく初期の中野田,そのピッチ・コンディションでした。ただ,よく読んでみるとジュゼッペ・メアッツァ競技場に近いのではないかな,と感じています。


 ジュゼッペ・メアッツァを特徴付けるのは,重要な動線でもある通路がデザイン的な要素として取り入れられているという構造面でありますが,


 ピッチ・コンディションがよろしくない


というネガティブも残念ながら,特徴となってしまっているように思います。


 ピッチが安定的に養生できない,となると,やはり日照面での問題を考えるところです。ウィキさんでも指摘されていますが,サン・シーロはワールドカップに向けた改修で透過性を意識した屋根を取り付けているのですが,透過性を維持するためのディバイスを欠くために想定通りの日照が確保できず,ピッチ・コンディションが必ずしもよろしくない,と。


 ただ,もうひとつ気になるのは「通風性」という要素です。サン・シーロはシューボックス・スタイル,にも感じる構造ではありますが,各スタンドが独立しているわけではありません。ローマに残るコロッセウム,むしろこちらに近いスタイルの競技場と位置付ける方がより近いように思われます。そして,そのスタンドは(一面を除いて)かなり高いところにまでありますし,屋根までが架設されています。となると,ピッチにまで「風」をしっかりと呼び込めるだろうか,そして導いた風を抜くことができるだろうか,と思うのです。


 ジュゼッペ・メアッツァのネガティブな特徴,どうもウェンブリーにも該当しそうです。全面改修以降,5回にわたる全面ピッチ張り替えを実施しているとのことですから,芝の養生に関する問題もあるとは思いますが,構造面も疑ってみないといけないように感じます。古典的なシューボックス・スタイルの競技場が印象的なイングランドですが,ウェンブリーにせよアシュバートン・グローブにせよ,観客席が「見切れ席」状態に陥ることを防ぐために,コロッセウム・スタイルに近い基本設計を採用するようになっています。そして,欧州カップ戦,その決勝戦をホストできることから考えても,最新のFIFA基準を充足した競技場であると考えてよさそうです。


 キャパシティが大きくなれば,当然に各スタンドの上縁は高くなります。つまり,スタンド上縁が高いと,どんなにルーフの素材を考慮しようとも「物理的に」芝の養生に必要な日照時間を稼ぎ出せない恐れもあるように思うわけです。加えて言うならば。防風性を考慮して,スタンド上縁と屋根との距離が小さくなれば,結果としてピッチへと効果的に風を導入するのは難しい話になってしまいます。


 日照も短くなって,通風性もよろしくない。となると,芝には過酷な環境ということにもなりましょうか。


 “ホスピタリティ”という部分では,最新のメリットもあるに違いない。FIFA基準はこの点,よく考えられたものだとも感じます。感じますが,フットボールにとって最も重要な舞台が良好なコンディションに維持できないならば,競技場の設計基準として決して望ましいものではないのではないか。そんな印象を,持たざるを得ない話であります。