アメリカン・フットボールな規則改正。

スタジアム,あるいはアリーナを俯瞰できる位置にいる,戦術分析担当。


 モバイルPCに情報をリアルタイムで落として,専用プログラムから得られる分析結果をダッグアウトへと随時流していく。ヘッドセットをしたコーチング・スタッフがタクティシャンと連絡を取り,その分析結果は手元のクリップボードと,ダッグアウトにも置いてあるPCへ。そして,分析結果をもとにした戦術交代を仕掛け,あるいはハーフタイムでの修正を掛ける。


 どこか,アメリカン・フットボールな印象を与える話ですし,バレーボール的,とも言えるでしょうか。報知さんの記事をもとに,レギュレーション変更のことなどを。


 JFAは,今季からダッグアウトでの通信手段(携帯電話だったり,無線だったり)の使用を認める,とのことでありまして。となると,実際には戦術分析担当を置くことを認める,ということになるでしょう。


 確かに,俯瞰的な見方をすると“スペース”の奪い方だとか,パス・コースの切り開き方などが見やすくなります。対戦相手のウィーク・ポイントがどこにあるのか,ピッチを高い位置からチェックすることによって理解しやすくなる,というメリットも,あるにはあるでしょう。


 けれども,ピッチからの視界はあくまでも平面ベースです。水平な視界から,俯瞰的にスペースをイメージした動き方が求められる,と考えるべきでしょう。


 であれば,ダッグアウトへと情報を落とすとしても,その情報を整理するための「時間枠」も必要かも知れません。俯瞰でのスペース感覚を,平面視界での感覚へと変換していく必要があるわけですから,ハーフタイムでのブリーフィングが緻密なものとなる,という変化はあるかも知れない,と思います。


 ただ,それ以上に。


 アメリカン・フットボールであったり,ラグビーフットボールは“エリア・マネージメント”(エリアの争奪戦),という色彩が相当に濃く,俯瞰的にゲームをチェックする意味が確かに大きいのですが,フットボールという競技は,アメフトやラグビー・ユニオンほどエリア争奪が意味を持つとは思えません。チームが描く仕掛けイメージ,それらをリアルタイムで修正することよりも,トレーニングを通じたイメージのすり合わせなどの過程で,平面ベースの視界と,俯瞰ベースの視界とが結び付いていくことの方が大事かな,と思うのです。


 さらに言えば,リーグ戦,カップ戦を含めて戦術交代には制限がかかっているのですから,相手の戦術的な変化に対して,ベンチ・ワークによってギアチェンジを仕掛けられる,その機会は自ずと制限を受けます。また,フットボールラグビーフットボールと同じく,テクニカル・タイムアウトが存在しない競技です。ましてや,アメフトのようにヘッドギアにインカムが仕込まれているわけでもありません。テクニカルエリア,その最前線で戦術的な指示を飛ばすこともできますが,基本的には,ピッチ(フィールド)に立っている選手たちが,自律的に相手のウィーク・ポイントを見抜き,チーム・バランスを保っていく必要があるわけです。


 などを考えてみますに。


 チームとしての戦い方が機能していないときに,攻撃がノックしてしまうポイントがどこなのか,そのきっかけが何にあるのか,反対に守備応対に乱れがあるならば,ファースト・ディフェンスへの入り方がどれほどイメージからずれているのか,などを“リアルタイム”でチェックするなどのメリットはあるでしょう。でも,そのメリットはゲーム・クロックが90:00を指し示すまで,“On the Pitch”で意味を持つのではなくて,むしろそのあとであったり,キックオフを告げるホイッスル,その前段階の“Off the Pitch”に意味を持ったりするのではないかな,と個人的には感じます。