Arrivederci, S2000.

日常速度域で,楽しさを感じられるか。


 「追い込まないと,楽しくない」。


 UKでは,追い込むタイプのエディターさんが多いはずなのに,そんな評価をされていたな,と思い出します。UKを含めて,欧州市場ではボクスターなどと真正面から勝負を挑まなければいけないオープン・スポーツです。となれば,評価基準が跳ね上がってしまうのも道理,です。私がロンドンで手に取った自動車雑誌も,比較記事としてボクスターを引っ張り出していました。


 ただ,ホンダの意識は違ったところにあったかも知れません。個人的に推理するならば,「現代的なスーパーセブン」を意識したのではないか,と思うところがあるのです。といっても,ロータス時代の話ではなくて,ケイターハム・スーパーセブンであります。


 絶対的に軽量なボディに,高性能なエンジンを搭載する。コスワースBDRであったり,ボクゾールを搭載していた時代ですが,そんな時代のスーパーセブンを,現代的なボディ・ワークで,しかも現代的な快適性を落とすことなしに実現できれば。そんなアイディアを現実に,と思えば,ビックリするほどに高回転型のVTECであったりにも納得がいきます。


 ただ,ライバルは「全方位型」でした。こういうピンポイントが,通用しなくなっていたということなのかも知れません。


 今回は,ホンダさんのリリースをもとにしながら,屋号な話をしてみよう,と思います。



 ストイックなまでの高回転型。VTECの面目躍如,ではあります。さすがバイク屋!と思うところです。でもホントは,低回転から望むトルクがスムーズに引き出せることだったりが,オープンには求められていたのではないかな,と思ったりします。


 同業他社さんではありますが,NA6はコントローラビリティで世界的な評価を獲得したように思います。そのコントローラビリティは,レース・トラックでの話ではなくて,オープン・ロードでの話でもありました。最初期型のNA6はテール・ハッピーな傾向がある,という見方もされましたが,(公道でオススメできる話ではないですけど)アクセルを踏んで曲がる,それも絶妙なドリフト・アングルを付けた状態で踏んで曲がれるという意味も持っていたように思うのです。確かに,ビギナーが乗れば,テール・ハッピーな傾向は気になったかも知れませんが,手練れにとっては興味深いセッティングでもあったかな,と思うのです。


 ホンダの開発陣は,S2000の本籍をレース・トラックと表現していたと聞きます。FRですから,絶妙なドリフト・アングルを付けた状態でコーナを抜けることはできるわけですが,その絶対値が相当に高い。速度域が高いわけですから,踏んで曲がるにしてもコントロールは難しいものになります。レース・トラックを意識した,ストイックなモデルがあってもいい,とは思いますが,できるならば“タイプS”などの設定で本来の牙を持たせ,スタンダード・モデルであれば日常速度域での楽しさであったり,上質さを追求してもよかったのではないかな,と。


 パッケージングであり,ディメンションであり。S2000はスポーツとして,ひとつの最適解を持っているはずです。また,(いまとなっては古典的な印象もありますが)なかなかのフォルムを持っているようにも思います。でも,走りで表現するものがためにプレゼンスを得られなかった。ロングライフであったことはうれしいのですが,どこかで寂しさを感じもします。