常翔啓光学園対御所工・実戦(08〜09全国高校ラグビー・決勝戦)。

「僅差」が勝負を分ける。


 ファイナル・スコアで言うならば,両者の差は9点です。ちょっと禅問答的な表現になってしまいますが,この9点差は本当に僅差だと思いますし,しかし「9点差」を作り出してしまった要素を思うと,「大きな僅差」という表現もまた,当てはまってしまうような印象を持っています。


 高校ラグビー,その決勝戦であります。MBSさんの速報ページをもとに書いていくことにします。


 まずは,“Last Loser”である御所工・実から。


 23分の仕掛けが,鍵を握ったように思います。
 攻撃を仕掛けていたのは,御所サイド。22m付近で,ボールを展開しながら縦に仕掛けるポイントを狙う。という形だったとは思うのですが。
 パス・スピードがちょっと緩いタイミングが,確かにありました。フワッとしたパスが繰り出されてしまったような。そんなパスに,展開のリズムがちょっとだけ澱む。その澱みを,鋭く啓光に突かれる。チームが仕掛ける方向へと傾いていましたから,ボール・キャリアに対して「構える」ディフェンスではなくて,「追い掛ける」ディフェンスしか仕掛けられない。ちょっとしたリズムの緩みが,ゲームの主導権を引き戻すのではなくて,むしろ主導権を相手に渡すかのような結果に結び付いてしまったように感じられます。


 もうひとつ。後半に仕掛けた攻撃がもったいなかったですね。


 啓光が敷いているディフェンス・ライン,その裏にしてタッチライン至近を積極的に狙い,キックを繰り出す。“エリア”を奪いにかかると同時に,仕掛けのポイントをさらに高めるという狙いを同時に満たす,いい狙いでした。
 キッカーのボール・コントロールも悪くなかったように見えたし,そのボールへと鋭く反応してもいた。いたけれど,タッチ・ジャッジはボールがタッチラインを割ったというジャッジを下す。BKが仕掛けの中心にある常翔啓光に対して,御所が追撃態勢を強めるためには”エリア”を積極的にコントロールする形で仕掛ける必要性がある。そんな印象を持っていただけに,この仕掛けが「結果的に」機能しなかったのは,本当にもったいないと思いました。


 対して,決勝戦を制した常翔啓光学園であります。


 BKの鋭さは,明確なストロング・ポイントでしょう。
 「縦方向への速さ」だけではありません。仕掛けるディフェンス,という意味での鋭さも持ち合わせています。前半23分の仕掛け,そのきっかけになったのは鋭く仕掛けるパス・カットでした。
 御所の繰り出してくるパス・ワークがそれほどの鋭さや速さを持っていない,という感覚を持っていたのではないでしょうか。常翔啓光のインターセプトは,「仕掛けるポイント」を明確に意識したものだった,と思います。そして,常翔啓光のウィングはラインのギャップを冷静に,でも鋭く狙い,攻撃の起点を作り上げることに成功します。そして,自陣22mという深いポイントから,鋭く縦にランを仕掛けていく。
 後半,実質的に決勝戦の帰趨を決定付けることになるトライでも,縦に速いランは強い印象を残すものでした。この決勝戦での常翔啓光は,間違いなくランからリズムを構築していたように映ります。


 そして,常翔啓光は攻撃,守備のバランスにも優れていました。
 ゲーム最終盤,御所は仕掛けを強めてきていました。その攻撃に対して,しっかりとした守備応対を続け,決して破綻を見せることはありませんでした。トーナメントの駆け上がり方を見ても,チームのウェイトバランスは攻撃面に傾いていて,必ずしもディフェンスでリズムを構築するようなチームではない,という印象を持っていましたが,このゲームでの常翔啓光はディフェンスの安定性によってゲームを冷静にコントロールする,という側面が表現されてもいたように感じます。


 ・・・正直なことを言えば,意外な展開でもありました。
 守備的な安定性で,決勝戦へと駒を進めてきた御所が,積極的に仕掛けていったがために守備面で隙を生じる。攻撃面でリズムを生み出し,トーナメントを駆け上がってきた常翔啓光はむしろ,鋭いディフェンスや的確な守備応対によってゲームを冷静にコントロールしてもいた。常翔啓光の戦い方,その幅広さが勝負を分けたひとつの要素,と見ることもできるように思います。