新田対深谷戦(08〜09全国高校ラグビー・1回戦)。

初戦から,近鉄花園第1グラウンド。


 願ってもない,大舞台です。その大舞台で,積極的な立ち上がりを見せたのは深谷でした。


 エリアを奪うべく,キックを繰り出そうとするボール・ホルダー。そのボール・ホルダーに対するチャージは,相当に鋭かった。また,ボール・コントロールを奪ってからの「縦」を狙う姿勢も,相当に徹底されていた。いい立ち上がりだった,と思います。


 ということで,楕円球な話であります。今回は,MBSさんの速報ページをもとに,高校ラグビーの話など。
 と言っても,1回戦を俯瞰しようなどとは思っておりませんで,当然埼玉県代表にフォーカスして見てみよう,というわけです。ですので深谷目線になってしまいますが,ゲームは相手あってのこと。


 そこで,対戦相手に敬意を表して新田サイドから。


 エリアを奪えなかった,というのが大きい要素だったかも知れません。
 ひとつひとつの局面,そこでのディフェンスは悪くないと思います。ただ,ファースト・ディフェンスからボール・コントロールを奪い,攻撃を仕掛けるという「流れ」がなかなか作り出せなかったように思います。たとえば,ボール・キャリアへのディフェンスは悪くありません。ありませんが,ユニットとしてどうボールを奪っていくかが表現できなかった。むしろ,深谷のフォローが素速く,ここでも後手を踏んでいました。その影響も大きかったと思いますが,ボール・コントロールを失うポイントがあまりに低かったと思います。
 それだけ,深谷のディフェンスが攻撃的であったとも言えるでしょう。また,深谷が立ち上がりから押し出した「縦」への姿勢を受け止めるところからゲームをはじめてしまったことも大きいでしょう。


 局面ベースのディフェンスが,必ずしも「流れ」として構築できていなかった。新田にとっては,後手を踏む時間帯が多く,結果としてボールを高いエリアにまで持ち込めなかった,という印象です。


 対して,深谷であります。


 ラグビーでありながら,フットボールな表現を使うならば“ハーフコート・カウンター”を存分に繰り出したゲーム,と言えるのではないでしょうか。相変わらず長くなってしまいましたので,ちょっと畳ませていただきますと。


 立ち上がりの時間帯こそ,最も大きな鍵。


 そんな意識を,フィールドに立つフィフティーンすべてが共有していたようです。その意識が,「縦」への鋭さとして表現されたように見えます。


 ラグビーフットボールは,比較的実力差が忠実に反映される競技です。ですが,“メンタル”がまったく影響しないか,と言えばそんなことはなく。主導権を相手に抑えられてしまえば,その主導権を再び引き寄せるには大きな労力を必要とします。ならば,主導権を最初から積極的に奪いに行き,流れを手放さないこと。その形に,しっかりと収めることができたようです。
 新田のディフェンスは,局面ベースで見るならば鋭さを持ったものです。ただ,そのディフェンスが攻撃へとつながることは,ほとんどなかった。ポイントへのサポートがしっかりと機能していたからです。
 ポイントでの数的優位を,相手よりも早い段階で構築できる。となると,仕掛けの選択肢は大きく広がります。高いエリアでボール・コントロールを維持しているならば,FWを積極的に生かしてモールで仕掛けることもできるし,ハーフウェイから22mラインあたりのエリアであれば,コンビネーションを生かしたラン・プレイで相手ディフェンスのクラックを突く,という選択肢も使える。


 ハーフタイムを迎えるまでに,6トライ・4コンバージョンを奪取。後半だけでも,7トライ・4コンバージョンを奪ってみせる。確かに大きな差ですが,その差はエリア・コントロールという部分での差がファイナル・スコアに(かなりダイレクトに)反映されたもの,とも感じます。
 新田がハーフウェイから抜け出して,深谷エリアでプレイできた時間帯があまりに限られてしまったのに対して,深谷はハーフウェイよりも新田サイドに入ったエリアで,ほぼプレイすることができていた。スコアの差よりも,どこでプレイしている時間帯が長かったのか,という部分で,両者の差は明確になってしまったように感じます。


 ・・・「個」が持っている差。


 ファイナル・スコアだけを取り出すならば,そんなフレーズを持ち出したくなります。確かに,そういう側面も否定できないでしょう。新田は,細かい部分でアンフォースト・エラーを出していたように見受けられますし,そのミスを深谷に突かれかけた時間帯もありました。
 それ以上に,深谷が立ち上がりに見せた意識,その意識を真正面から受け止めざるを得なかったという部分が,この予想外のスコアの背景にはあるように思います。


 さて,深谷は再び「シードの壁」に挑むことになります。待ち構えるシードは,國學院久我山であります。相手にとって不足など,あろうはずもない。望むのは,このゲームのように主導権を譲り渡さないという強い意識。久我山という壁を打ち破り,その先に見えるものを見てほしい,と思います。