レース直系なドゥカティ。

ドゥカティと言えば,Lツイン。


 確かにその通り,だと思います。WSBKで強さを発揮している1098,そのトレリス・フレームに搭載されるのは“テスタストレッタ”と呼ばれる水冷Lツインです。その血統とは別に,モンスターなどに搭載される空冷Lツインもあります。いまですと,公道向けと位置付けられる空冷ですが,もともとはレースな血統でありました。


 であれば,最高峰クラスに参戦するにも2気筒を選択するのではないか。どこかで,そんな意識を持っていたのですが,ドゥカティは違った選択をします。


 V型は維持するけれど,シリンダーの数が違う。2気筒ではなくて,4気筒を搭載したレーシング・バイクを持ち込んだのです。このバイクが,直訳すると「強制開閉型16バルブ」となる,“デスモセディチ”です。



 フットボールの話も「人事往来」的な素材が多いことですし,ここは屋号的な話をしてみようかと思います。


 なぜ,Lツインが代名詞であるドゥカティが,4気筒を投入したのか。


 個人的には,「使いやすいフルパワー」を意識したからではないか,と思っています。ライダース・クラブ誌でも特集が組まれていましたが,現代的な2気筒は相当に高回転域を使えるようになっていますし,それゆえにピークパワーも絞り出せるようになっています。
 反面で,扱いやすさという部分で難しさを見せることもあるようです。むしろ,コーナリングから脱出加速を引き出したいときに,スムーズなパワー・デリバリーを期待できるのが4気筒,という見方もできるのだとか。ドゥカティは,開発当初からパワー・デリバリーを意識して,V型4気筒という選択をしたのではないか,と思うわけです。


 ただ,2気筒の持っている“わかりやすいトラクション”も捨てがたい。そこで,クランクを位相させるという技術を持ち込みます。ヤマハが,M1やR1に採用したアイディア(クロスプレーン・クランク)と同じ,であります。


 最高峰クラスを戦うマシンをベースに,最低限のモディファイを加えたロードゴーイングが,“デスモセディチRR”であります。当然,エンジンもモトGP直系のV型4気筒ですし,フレームはスティール・トレリスとカーボン・コンポジットとのハイブリッドを採用するなど,(時間的なズレは当然ありますが)レースで使われた技術がそのまま,落とし込まれています。純然たるレーシング・マシン,その開発費用を思えば,確かにバーゲン・プライスとも表現したくなるプライス・タグを付けていた(とは言え実際には,見ただけで「ありがとうございました」といいたくなるようなお値段ですが)バイクです。
 であれば相当な悍馬か,と思いたくなるところですが,実際には操縦特性に優れたバイクなのではないかな,と思うのです。