浦和対深谷戦(2008高校ラグビー埼玉県予選・決勝戦)。

距離を詰めてきた部分と,詰めきれない部分と。


 そのどちらもが,フィールドに表現されていたように思います。


 チーム・ビルディングの方向性から見れば,恐らくは相似形を描いているでしょう。そう感じるだけに,詰めきれなかった部分が明確に見えているようにも感じます。


 あえて,ゲームを2分割して考えますと。


 前半にゲームをコントロールしていたのは,浦和と見ることもできるでしょう。であれば,後半立ち上がりの仕掛けは,大きな意味を持ったはずです。実際に,浦和は積極的な攻撃を仕掛けもします。しますが,その仕掛けを跳ね返されてしまいます。
 

 ともすれば「僅差」。しかし,その僅差を埋めなければ切符を奪い取ることはできない。同じく,「僅差」という課題に直面し続けたチームが対戦相手,というのは奇妙な一致を感じたりもしています。


 高校ラグビー埼玉県予選,その決勝戦であります。今回は浦和と深谷,そのラグビー・スタイルが持っている共通点と,両者を分けた要素を意識して書いていこう,と思っています。


 前半終了時でのスコアは,5−0。


 コンバージョンなしの,純然たる1トライ差でした。この段階で「表面的に」考えるならば,浦和にリズムをコントロールされた深谷,と見ることもできます。裏返してみれば,浦和には勝機があった,とも。
 ただ,「守備から攻撃」という部分は表現できていたけれど,攻撃オプションという部分を冷静に考えるならば,浦和が1トライ差をひっくり返し,主導権を奪うのは厳しかったように感じます。たとえば,相手ディフェンスにボール・キャリアが止められたとして,止められたエリアが攻撃を再び仕掛けるための起点となります。そこで,相手ディフェンスを揺さぶるためのアイディアとして,トリック・プレーなどを仕掛けていくのですが,相手ディフェンスがしっかりと整っているタイミングでトリック・プレーを悟られるようなオフ・ザ・ボールでの動きをしてしまうために,抑え込まれてしまう局面があったわけです。加えて,ポイントからボールを引き出すときに,BKのバックアップが整っている局面であるにもかかわらず,FWでの勝負にこだわってしまったり,仕掛けではオプションの多さを感じられる局面は,残念ながら少なかったように思います。


 深谷も,ある意味では守備面を基盤としています。


 そして,前のエントリでも書きましたが,“エリア”の奪い方を意識した戦い方ができていました。細かい部分になるかも知れませんが,決勝戦ともなると「細かい部分」が結果を左右する大きな要素になるように思います。


 ラグビーフットボールは“エリア”を奪うという要素も強く持っています。


 フットボールと同じく,トライを奪取するためには数的優位を構築することが求められます。同時に,相手ゴール・エリアに近いエリアで攻撃を展開し続けることができれば,相手ディフェンスのファウルを誘うことも,ミスからの突破を図ることも可能になります。そのために,有効な手段となるのがキックです。
 チームの最後方に位置しているフル・バックをさらに下げ,ボール・コントロールに時間を掛けさせる。同時に,鋭くフリー・ランを仕掛け,できる限りボール争奪ポイントを相手ゴール・エリアから近いポイントへと近づける。このような部分で,深谷は浦和に対して明確なアドバンテージを持っていたように感じます。


 そして,攻撃オプションにもキックが幅を持たせています。


 浦和のディフェンスを考えれば,積極的にボールを展開してディフェンスを揺さぶり,そこから数的優位を構築してトライを奪取,という形に持ち込みにくい。となれば,守備ブロックの裏側にキックを繰り出し,相手ディフェンスを揺さぶる中からチャンスを作り出す。ラインアウトを起点とする先制トライ,その大きな要素となったのが,やはりキックという要素だったように思うのです。
 それだけではなく,FWを前面に押し出した仕掛けも繰り出すことができる。後半,浦和を突き放すことになったトライは,密集戦からPRが飛び込んで奪取したものでもありました。このときも,自陣からのキックによって大きくエリアを奪回,相手ディフェンスを難しい守備応対が求められるエリアへと引き戻し,同時にFWが相手ディフェンスに強くプレッシャーを掛け与え続けるというように,“カウンター・アタック”のような仕掛けでありました。


 ボールを展開することが,必ずしも相手ディフェンスに対する脅威には結び付かない。そのときに,どうディフェンスに動揺を生み出すか,というアイディアにおいて深谷は浦和を上回っている部分が,確かにありました。ロー・スコアではありましたが,ゲームを包む緊張感はまさしく決勝戦の持つ緊張感であり,ともに持っているラグビー・スタイルを表現したいいゲームだったと思います。


 最後に,ちょっとだけ今季のまとめを。


 群雄割拠,と言うのはまだ時期尚早かな,と思います。思いますが,強豪校,と呼ぶべきチームは広がっているな,と実感もします。ノン・シード勢が躍進を遂げ,リズムをつかんだ。そのリズムに対して動揺を誘われたのかも知れないけれど,いままで強豪とされてきたチームが心理的な隙を見せたことも確かです。「受ける」時間帯が生じるのは仕方ないとしても,悪いリズムを引き戻せないようではゲームに入る前から「隙」を持っていた(相手を甘く見ていた)と見られる。近鉄花園を射程に収めているのであれば,予選段階であっても「隙」を見せない戦いを望みたいと思います。
 また今季は,守備的なゲームを展開するチームが決勝戦へと駒を進めてきました。その守備を崩すような仕掛けを持ったチームが出てきてくれることを期待したいし,守備をリズムの基盤とするチームは,その守備を攻撃へと結び付けるアイディアを広げていってほしいと感じます。


 トーナメントに緊張感を与える,という意味においても,そして埼玉県勢が再び近鉄花園で大きな存在感を示すためにも,今季の流れは継続してほしいと思いますし,強豪が割拠するような状況を強く望みたいと思います。