深谷対慶應志木戦(第88回(2008)高校ラグビー埼玉県予選・準決勝)。

乗り越えることが本当に難しい,高く大きな壁。


 深谷というチームを思い返すとき,決勝戦を表現するのにこんなフレーズを使いたくなります。
 かつては,熊谷工に。最近では,正智深谷(埼工大附属深谷)が。
 その壁を突き破り,近鉄花園へと踏み出したのが,2004〜05シーズンのことです。初戦を突破して,2回戦で対戦したシード校に跳ね返された時点で全国というチャレンジは終わるのですが。


 そこから再び,同じ「県内の壁」を乗り越えられずにいます。今季は,この壁を乗り越えることができるでしょうか。・・・早速,深谷目線であります。


 ということで,再びの楕円球な話であります。しかも,連続エントリであります(申し訳ありません)。


 ラグビーフットボールの話ではありますが,ちょっとフットボール的にこのゲームを見ると,意外に理解しやすいかな,と思います。そこで,ゲインがどうとか,エリア・マネージメントがどうであるとか,あるいはブラインド・サイドがどうとか,ラグビー的な要素をできるだけ外してみることにします。


 持ち出したいのは,「攻撃の端緒」。つまり,ファースト・ディフェンスの鋭さであり,正確性です。この要素が,ちょっと大げさに言うならば試合を決めた要素ではないかな,と思うのです。


 ということで,まずは慶應志木から。


 ラグビーフットボールにおけるファースト・ディフェンス。
 “タックル”であります。タックルを鋭く,正確にボール・キャリアへと繰り出せるならば,攻撃を寸断することが可能になります。同時に,反撃の起点を作り出すこともできることになります。
 ボール・キャリアを止めたあとに,どれだけ早く数的優位を構築できるか。そして,誰がボール・コントロールを奪い,攻撃を仕掛けるきっかけを作るか。さらには,ボールを奪っているタイミングで,どれだけしっかりと仕掛ける態勢をつくれているか。・・・結局,ラグビー的な視線になりますけれど。


 ボール奪取が自分たちの形にならないと,仕掛けも形になりにくいのです。この部分で,慶應志木は鋭さを欠いていました。深谷のリズムを揺さぶるだけの,鋭いディフェンスではなかったと思うのです。


 ボール・コントロールを奪えなければ,攻撃の「形」を表現することができません。「形」に持ち込む前段階で,リズムを構築できないことになります。
 対して,深谷は守備面でリズムを組み立てる,という要素も持っています。同時に,攻撃面では縦への圧力,横への展開力を合わせ持ってもいる。明確な特徴,と言うよりも,バランスの整った攻撃が仕掛けられる,とも言えるでしょうか。鋭く,的確な守備が仕掛けられるから,そのあとに続く攻撃が,自分たちの形で進められる。


 そして,このゲームでは入り方を間違えるというようなことはありませんでした。


 準々決勝の川越戦では,相手のモチベーションを「受ける」時間帯が間違いなく存在したように感じます。潜在能力であったり,実際に持っている能力を思えば,恐らくAシードという評価は正当なものでしょう。それでも,ゲームへの入り方を決定的に間違えてしまえば,正智深谷のようにリズムを取り戻そうとしても時間的に間に合わないという事態にも陥りかねません。まして,相手はトーナメントでリズムをつかんでもいます。
 そんな相手だからこそ,しっかりとした立ち上がりをしなければならない。
 コーチング・スタッフはそんなことを考え,選手たちに意識付けを徹底したのではないかな,と想像します。


 そして,最も明確に試合への姿勢が表われていたのが,ディフェンス面ではなかったかな,と。


 いい形で相手を抑え込めれば,ボール・コントロールを相手の嫌な位置で奪い取ることができる。そこから,自分たちの攻撃の形を存分に表現していく。
 深谷が本来持っているパフォーマンスをしっかりと表現することのできたゲーム,ということになるのではないでしょうか。


 さて。先ほどのエントリに引き続き,ちょっとしたプレビューを試みてみることにします。


 どうしても,好意的なバイアスを持って見てしまうのですが。大幅にゲームへの入り方を間違えない限りは,難しいゲームにはならないだろうと思っています。
 もともと,リズムのつかみ方が似ています。浦和も,深谷もしっかりとしたファースト・ディフェンスで相手を抑え込む,という特徴を持っています。問題はその先。攻撃面では,深谷の方が圧倒していると思うわけですね。そこで,です。
 相手の嫌がる形にどれだけ早い時間帯で持ち込めるか,が重要だろうと思っています。
 加えて言うならば,「隙」を与えないことでしょうか。どこかに硬さを残してしまうと,川越戦のようにリズムを崩しかねません。そして,決勝戦での相手はリズムの崩れを誘うはずでもある。立ち上がりの時間帯に,自分たちの持っている形に持ち込めていない,などの「違和感」を感じるようなことがあれば,相手が描いている(かも知れない)ゲーム・プランに乗ってしまうことにもなります。


 それだけに。


 ごく当然のことになってしまいますが,「立ち上がり」が鍵でありましょう。相手の狙うロー・スコアとなるか,それとも深谷の持っている攻撃力を存分に表現するゲームとなるか。その分岐点となるのが,立ち上がりからの時間帯になるように思うのです。
 主導権争いをどちらが制するか,によって,ゲームの流れは違ってくるはずです。
 たとえば,ですけれど。
 浦和のディフェンスにかかってしまう危険性があるエリアがどこか。そして,浦和がセットしたディフェンスをどのようなアプローチならば打ち破ることができるか。そんな部分が,立ち上がりからの時間帯で見えると思うのです。彼らが意識している舞台を想定するならば,当然フィールドで即座に見破らねばならない要素でもあるでしょう。
 エリア・マネージメントという部分から,着実に相手を追い込んでいってもいいと思うし,縦への圧力を存分に生かして仕掛けていくのもいいかも知れません。
 どの方向から浦和を攻略するにせよ,守備からの仕掛けが、どれだけバリエーションを持って仕掛けられるか、を意識していいと思うわけです。
 「決勝戦」という大舞台そのものが重要なのは,当然です。ですが,県予選を超えたところを意識していてほしい。本戦を意識した戦いを,と思っていたりもするのです。