浦和ユース対名古屋グランパスU18戦(高円宮杯決勝)。

「衝撃的」。まさしく,そんな言葉で表現すべきゲームでしょう。


 前半45分間だけで,実質的にゲームを決定付けてしまう。のみならず,戦術的な柔軟性を存分に表現する。90分という時間枠の中で,しっかりと緩急を意識したゲーム・プランを組み立て,攻撃をフィニッシュへと結び付けていく。


 決勝戦を駆け抜けてくれるとは思っていましたが,ここまで猛然と加速していくとは想像していませんでした。ちょっと屋号的な表現をするならば,まさしく決勝戦で“オン・ザ・カム”な吹け上がりを見せつけてくれたように思います。


 代表戦仕様へと変更されている中野田での,高円宮杯決勝であります。


 岡山作陽を延長戦に持ち込まれながらも退けた浦和ユースと,FC東京U−18を2−0で下した名古屋グランパスU18との対戦となったわけですが,このカード,グループリーグ最終戦ですでに実現しているカードでもありました。


 それだけに,グループリーグと同じ図式になるという想定はしていませんでした。決勝戦という,結果が厳しく求められるゲームにあって,スカウティングを基盤としながら相手のストロング・ポイントをどのようにして抑え込むか,という要素もピッチには表現されるだろう,と考えていたからです。もちろん,自分たちのスタイルを消し去るわけにはいかない。バランスをどう傾けるか,というチーム・ハンドリングがピッチから感じ取れるのではないか,と想像していたのです。


 プロフェッショナルへの関門,という位置付けでもあるクラブ・ユースですが,あくまでもアマチュア。であれば,浦和目線を徹底するのではなく,今回はグループリーグでの印象を合わせながら,対戦相手に敬意を表してグランパスU18の印象からはじめたいと思います。


 駒場のゲームでは,アウトサイドでの主導権を完全に掌握されていた,という印象を強く持ちます。


 浦和ユースのダブル・アウトサイドはちょっと独特で,アウトサイドに広がっているセントラル・ミッドフィールドとウィンガーとのコンビネーションによって構築される時間帯が多いのですが,そのコンビネーションを抑え込むという形に持ち込めなかったように思います。また,パス・ワークから攻撃を構築しようにもセンター・ラインを崩すことがなかなかできない。トップから積極的に守備を仕掛けてくるために,攻撃がディレイされてしまう。そのディレイは,浦和ユースにとっては守備ブロックを構築するだけの時間を提供するものであり,グランパスU18にとってはパス・コースを潰してしまう決定的なタイム・ラグになってしまうように思えました。


 加えて言えば,浦和ユースの守備ブロック,特にCBとアンカーで構成されるトライアングルを揺さぶっていくことが難しい。


 そのために,攻撃イメージを大きく変更していく必要もあったはずなのですが,中野田でのゲームでも大きく戦術的な変更を仕掛けてきたようには受け取れませんでした。ビルドアップよりも,縦に鋭くセンターとサイドの背後のスペースを狙っていくこと,そのスペースに走り込むと同時にセンターの隙を突いてボックス深くに侵入,というこのゲームで得点を奪った形を立ち上がりから押し出してくるのではないか,と思ったわけですが,グランパスU18のコーチング・スタッフは“スタイル”へのこだわりを強く意識したのかも知れません。真正面からの勝負を挑む,という姿勢は尊重したいものの,決勝戦という位置付けを思えば,戦術的なアジャストメントは必要ではなかったか,と感じます。


 この部分の違和感は,高校チームではそれほど感じ取ることのできないものでもあります。クラブ・ユースであっても,高校チームの持つリアリズムは重要な要素だと思うだけに,フットボール・フリークとして言うならばもったいない思いも持ちました。


 さて。圧倒的な攻撃力を中野田のピッチへと叩き付けた浦和ユースであります。


 印象に残ったのは,攻撃力に加えて,ひとりひとりの守備意識でした。トップから積極的にプレッシングを仕掛けていくために,相当な流動性を持ったチームではあるのですが,守備ブロックが不安定な状態に陥ることがない。それだけでなく,ボールをロストした直後にボール・コントロールを奪い返すため,猛然と積極的な守備を仕掛けるために,自然とボール奪取位置が高くなっていきます。加えて言えば,ひとりがボール・ホルダーに対してアプローチを仕掛けると,それほどのタイム・ラグなしに数的優位を構築していくために,ボール奪取までを視野に収めた守備が可能になっています。ボール奪取位置,言い換えれば攻撃の端緒となるポイントが高いから,シンプルなパス・ワークで相手守備ブロックを揺さぶる,という形が有効性を持ってもいる。


 前半45分間だけで,実質的にカップの帰趨を決定付けた要素として,攻撃という側面での個だけではなく,守備面での個も大きかったものと思うのです。


 また,戦術的な柔軟性を持ち合わせてもいます。


 彼らの基本的なフットボール・スタイルは,複雑なポジション・チェンジとパス・ワークを巧みに組み合わせて相手守備ブロックを揺さぶり,隙を生み出すと縦へと鋭く飛び出していく,というものだと感じますし,オウン・ゴールとはなりましたが16分前後の時間帯の仕掛けは彼らのスタイルを具体的に表現したものであるように感じます。対して,後半は“カウンター・アタック”を意識した仕掛けへとシフトチェンジしていました。それほど明確なギアチェンジは感じられなかったものの,グランパスU18がボールをコントロールする時間帯が後半には増えてきます。そのときに,浦和ユースは守備的なバランスを失うことなく,逆にカウンターを仕掛けるタイミングを狙いながら守備応対をしているように受け取れました。


 ポゼッションからの仕掛けでも,カウンターからの仕掛けでも「縦」への鋭さをしっかりと持ち続けることで,戦術的な柔軟性を手に入れている。完成度の高いゲーム・プランではなかったか,と思います。その完成度を,Jユースでも存分に表現してくれることを,心から期待したいと思います。


 ・・・本来ならば,ファースト・チームが採用する戦術,もしくはフットボール・スタイルの延長線上に強化,育成部門のスタイルが位置付けられるものなのでしょうが,高円宮杯を通して見ると,むしろファースト・チームが意識すべき要素が少なからずユースのスタイルには表現されていたように思えます。


 浦和からのリリースを読むと,このチームからは4選手がファースト・チームへと昇格するとのことです。マンチェスター・ユナイテッドにとっての“ファーギーズ・フレジリングス”にあたるような存在,というにはちょっと少ない印象も持ってしまいますが,彼らにはそのポテンシャルを存分に解き放ってほしい,と思います。